【第97回】
白内障手術

【はじめに】

　白内障手術は世界中で最も多く行われている手術の一つです。白内障とは目の中のレンズである水晶体が混濁した状態のことで、網膜に像が鮮明に映らなくなるため視力が低下します（図１）。加齢、糖尿病、アトピー体質、ステロイド投与の副作用などが原因です。治療は、手術で濁った水晶体の袋（嚢）の中身を超音波で破砕吸引し、代わりに眼内レンズを嚢の中に挿入します（図２）。2〜3mmの小さな切開創で手術することが可能で、日帰りや1〜2泊の短期入院で手術が行われています。

図1、２　エイエムオー・ジャパン株式会社　『白内障』と診断されたら　より引用

【白内障手術によるQOV(Quality of vision)の向上】

　白内障手術を受けると、視力改善だけでなく手術後の見え方の質QOV(Quality of vision)の向上も期待できます。また、挿入する眼内レンズの度数の選び方によって、手術後の遠視や近視を軽くすることができます。近年では、乱視を矯正する眼内レンズも多く使われるようになり、乱視が強い方も術後乱視を軽くできるようになりました。
　保険診療で使用される単焦点眼内レンズは、焦点が合う距離が1箇所で、その前後を良く見るためには眼鏡が必要です。最近は、多焦点眼内レンズという眼内レンズの特性により、3箇所、5箇所または連続的に焦点が合いやすくなる眼内レンズも使用されるようになり、眼鏡を必要とする頻度を減らすことができるようになりました。一方、多焦点眼内レンズにはデメリットもあります。単焦点眼内レンズに比較するとコントラストがやや低下し、夜間　車のライトやネオンなどに光の輪が見えて気になることがあります。また、緑内障などで視野障害がある方、糖尿病性網膜症や網膜前膜、黄斑変性など眼底の病気がある方には向きません。また、多焦点眼内レンズによる手術は選定療養の該当手術となりますので、多焦点眼内レンズの代金だけは自費になるため、保険診療である白内障手術費用とは別に、別途レンズ代費用のご負担が必要になります。

【白内障と同時にできる手術】

　白内障手術の際に他の疾患も同時に手術することがあります。例えば、黄斑に余計な膜が張ってしまう黄斑上膜（網膜前膜）がある方は、白内障手術のみでは良好に視力改善しないことがあるため、適応があれば黄斑上膜をとる硝子体手術も同時に行うことがあります。硝子体手術を同時に行う場合は、白内障単独手術(10分?20分)よりも30分ほど余計に時間がかかります。また、緑内障があって、手術により眼圧を下げた方が良いと思われる場合には、眼圧を下げるために、白内障手術時に目の中の水（房水）の流出路を切開、切除したり、微細な器具を流出路に挿入する手術を同時に行うこともあります。

【白内障手術を受ける時期】

　白内障手術を受ける時期について迷われることも多いかと思います。基本的には水晶体に混濁があって不自由を生じている状態であれば、手術の適応があると思います。視力が低下していてもあまり不自由を感じない方は、少し様子を見ても良いのかもしれません。しかし、加齢により水晶体の組織が弱くなる、また固くなるなどで手術がしにくくなることもあります。また、認知機能が低下すると術後の清潔が保つことや術後の点眼をきちんとすることが難しくなる可能性があります。ご家族や周りの方の協力が得られれば良いのですが、協力が得られない場合は比較的早めに白内障手術を検討された方が良いかもしれません。

【白内障手術でQOVを上げるために大切なこと】

　白内障手術を受ける前に、手術後どのように物を見たいのか、そして今までどのように物を見ていたのかを理解しておく必要があります。元々近視があった方は、裸眼で近くを見えることに慣れており、手術後遠方に合わせてしまうと裸眼で近くが見えないことを不自由に感じることがあります。また、遠視の方は、手術後裸眼で近くが見えるように合わせると、裸眼で遠くが見えないことを不自由に感じます。多焦点眼内レンズはこれらの欠点をカバーできる可能性のある画期的なレンズですが、何もかもはっきり見えるカメラのオートフォーカスのようなものではありませんので期待しすぎも禁物です。手術前には上記についてよく検討されることをお勧めします。そして、緑内障や糖尿病性網膜症、眼底出血、黄斑変性等があると白内障手術を行なっても思うように視力が改善しないことがあります。白内障手術後、良い視力を得るためには、他の眼科疾患の早期発見、早期治療が重要です。さらに、網膜疾患を生じやすくなる糖尿病、高血圧、高脂血症などの成人病の予防や治療も大切です。
　将来の視力を守るためにもお近くの医療機関で眼科健診や区民検診を必ず受けるようにしましょう。