【第103回】
大腸がんと大腸内視鏡検査の話
大腸がん発生と関係がある因子として、「加工肉」・「過量のアルコール」・「肥満」・「高身長」が確実な危険因子として、そして「運動」が確実な抑制因子として国際的に認知されています。加えて、危険因子の可能性が高いものとして「赤身肉」が、抑制因子の可能性が高いものとして「食物繊維」・「全粒穀物」・「乳製品」・「カルシウム」が知られています。
日本人対象の研究結果からは上記の中で、「過量のアルコール」・「肥満」・「運動」は日本人でも確実またはほぼ確実とされ、「加工肉」・「赤身肉」・「食物繊維」・「カルシウム」についても関連の可能性があると考えられています。一方、「高身長」などはデータ不十分な状況です。その他に、「喫煙」が直腸がん発生の危険因子の可能性があるという報告があります。
以上より、現段階での日本における大腸がん一次予防策としては、節酒・運動・適正体重の維持が第一に推奨され、加えて多量の加工肉や赤身肉の摂取を避けること、喫煙しないこと、食物繊維やカルシウムの摂取に努めることも推奨されます。
日本を含むアジア圏では、大腸がんスクリーニング検査として便潜血検査免疫法が主流となっています。対象年齢は日本では40歳以上ですが、台湾・韓国・オーストラリア等では50歳以上で、死亡率減少効果が報告されています。また、欧州でも近年、便潜血検査を実施する国が増加しており、2015年時点でEU24カ国において実施あるいはその準備が進行中です。
一方、大腸内視鏡検査を大腸がんスクリーニング検査に用いている国はポーランドとドイツの2カ国で、切除すべき腫瘍性病変の高発見率が報告されている一方、受診率の低さが指摘されています。
米国で大腸ポリープ切除後の検査間隔決定を目的としたNational Polyp Studyの結果が1993年に公表されました。すべてのポリープを完全に切除された患者の次回内視鏡検査は3年が基本で、それにより大腸癌の罹患と死亡が抑制されることが示されました。
日本では、特定参加施設のみで同様先行研究Japan Polyp Study Workgroupが行われましたが、検査間隔を3年後に設定することの安全性が十分担保できない(浸潤癌の見落としが複数認められたため)という結論に基づき、内視鏡的ポリープ切除後のサーベイランス間隔は3年以内に行うことが提案されました。
その後、日本においても、2003年から多施設での同様の臨床試験が行われ、初回と1年後の2回大腸内視鏡検査を受けた後は3年間隔をあけても良いことが示されました。
近年、米国およびEUのガイドラインでは、大腸内視鏡検査時に切除したポリープの有無や個数、最大径、病理組織診断で、次回内視鏡検査をするまでの間隔がある程度定められています。
日本での現行ガイドラインでは、初回の大腸内視鏡検査で異常がなかった場合は通常の便潜血による健診へ戻ります。ポリープ等病変があった場合は、ポリープの個数や病理組織結果で次回の内視鏡検査までの推奨間隔が異なります。ポリープが2個以内で癌もしくはそれに準ずるポリープが含まれない場合は3〜5年後の再検査を推奨。癌もしくはそれに準ずるポリープではない3〜9個のポリープが認められた場合は3年後の再検査が推奨。10個以上ポリープが認められた場合又は癌もしくはそれに準ずるポリープが1個でも認められた場合は1年後の内視鏡検査が推奨されています。ただし、鋸歯状病変(SSL:Sessile Serrated Lesions)を認めるポリープがあった場合は切除後1年ごとのサーベイランスが現在は推奨されています。ただしこれはあくまでも目安です。詳細は検査後に担当医の先生からお聞きください。
大腸がんは年々増加してきており、2021年の癌死亡者数(がんで亡くなった方の数)で男性2位(1位は肺がん)、女性1位(2位は肺がん)、男女合わせても2位(1位は肺がん)となっています。
生活習慣による予防と早期発見のための健診による便潜血検査を受けて、陽性ならば必ず内視鏡検査を受けてください。近年は下剤や機器、麻酔も進歩し、以前よりも苦痛なく検査が受けられるようになっています。特に一度も大腸内使用検査を受けたことがない方は、一度検査を受けられることをお勧めします。