【第104回】
加齢性難聴と補聴器の効果について
2025年以降、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、我が国は国民の4人に1人が75歳以上という超高齢化社会に突入することになります。そのような背景もあり、今後ますます難聴に対する対策が重要になってきます。加齢とともに、一般的には高音域から聴力低下が始まり、40代では聞こえの悪さを自覚する人は少ないですが、60代になると難聴を自覚する人が急増します(図1)。
(内田 育恵、他:日本老年医学会雑誌 2012より)
難聴は個々の健康だけでなく、家族や周囲の人々との関係にも大きな影響を及ぼします。聞こえの問題がコミュニケーションの障害となり、疎外感や孤立感を抱くことも少なくありません。難聴の人は、聞こえの良い人に比べて、脳の処理能力のうち「音の情報処理」に多くを費やされてしまいます。脳の情報処理には限りがあるため、そのような状態が続くと結果的に神経が変性し、脳の萎縮が加速していきます。また、耳から脳に伝わる音刺激が少なくなると神経回路の活動が減り、脳が委縮し認知機能の低下が起きていきます。2020年に発表されたランセット国際委員会の研究報告では、「予防可能な40%の12の要因の中で、難聴は認知症の最も大きな危険因子である」と指摘されており、ますます難聴と認知症の関連が注目されています1) (図2)。
(GNヒアリングジャパン HPより)
年齢とともにゆっくりと聞こえが悪くなっていく加齢性難聴の場合、若返りは困難であるため、その対処法として効果的なのは補聴器を活用することです。補聴器を使用することで、認知機能を抑制できることが近年の研究で明らかになっています2)。ただし、補聴器の使用にあたり押さえておくべき重要なポイントがあります。それは、補聴器は必要な時に短時間だけ使用すれば良いものではないということです。補聴器は眼鏡と異なり、最初から最適な状態に調整できるものではありません。難聴の人は正常者以上に大きい音をうるさく感じてしまうという特徴があり、いきなり大きな音を聞くと疲れてしまいます。耳が新しい音に慣れるまで数か月かかるため、最初は弱めの音量から開始し、日常生活で慣れた頃に徐々に音量を上げていきます。補聴器を購入しても効果を実感できず、使用を止めてしまうケースがありますが、これは補聴器の調整が十分になされていない可能性があります。補聴器は必ずしも高ければよいというものではなく、正しく調整されているかどうかが非常に重要です。
最後に、杉並区では65歳以上で条件を満たした場合、補聴器購入の助成を受けることができます。詳しくは杉並区のホームページにある「高齢者補聴器購入費助成」をご確認ください3)。また、補聴器相談医から補聴器が必要と判断された場合、一定の条件を満たせば、購入費用の医療費控除が受けられることがあります4)。難聴や補聴器に関する正しい知識を身につけ、補聴器を適切に使用することで、より多くの人がその恩恵を受けられることを心より願っております。
1) Livingston, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet. 2020;396(10248):413-446.
2)Sugiura S, et al. Longitudinal associations between hearing aid usage and cognition in community-dwelling Japanese older adults with moderate hearing loss. PLoS One. 2021;16(10): e0258520.
3)杉並区公式ホームページ
くらしのガイド>高齢者の方へ>高齢者世帯の生活援助>高齢者補聴器購入費助成
https://www.city.suginami.tokyo.jp/guide/koureisha/enjo/1087106.html
4)日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会ホームページ
一般の皆さん>難聴 >補聴器購入者が医療費控除を受けるために
https://www.jibika.or.jp/modules/hearingloss/index.php?content_id=7