【第25回】
更年期障害
閉経をはさんだ前後約10年間を更年期といいます。閉経とは月経が永久に停止すること をいい、1年間連続して月経がない場合を閉経とみなします。 日本女性の平均閉経年齢は およそ50歳ですので、45〜55歳くらいまでが平均的な更年期の時期ということになります 。この期間におこる心身の様々な不調を更年期障害といいます。
女性は男性と違い、ライフステージによって女性ホルモンの分泌量が大きく変動します 。女性ホルモンとは、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲストーゲン )の二種類を指しますが、更年期障害は50歳前後でエストロゲンの分泌量が急激に低下す ることが主な原因です。
エストロゲンの分泌が低下すると、まず月経周期が不規則になります。エストロゲンは 生殖機能だけでなく、自律神経系、心・血管系、脂質代謝、骨代謝、皮膚、脳など様々な 器官に作用しているため、エストロゲンが足りなくなるとこれらの器官が今までどおり機 能しなくなり、様々な不調を感じるようになります。のぼせ、ほてり、発汗、肩こり、頭 痛、めまい、集中力の低下、不眠、不安、動悸、皮膚の乾燥・かゆみ、関節痛、性交痛な ど、個人差はあるものの、多種多様な症状が出現します。バランスの良い食事、適度な運 動など生活習慣を整えることはもちろん大切ですが、それだけで元気に更年期を乗り切る のはなかなか難しいことです。我慢強い日本女性は、つらい更年期症状をなんとか気合で 乗り切ろうと頑張りすぎてしまう方が多いのですが、こんな時こそぜひ自分の身体の声に 耳を傾けて、婦人科へ相談にいらしてください。
更年期障害には、低下したエストロゲンを補うHRT(ホルモン補充療法)、漢方薬、抗 うつ剤・安定剤などいくつかの治療法があります。治療に際しては、自己判断せずに婦人科医と相談のうえ、 症状やライフスタイルに適した治療を選択していきましょう。更年期 障害は甲状腺機能異常や膠原病、循環器、耳鼻科、整形外科、脳外科疾患、うつ病などの 精神疾患とよく似た症状が起こることもありますので、婦人科だけでなく、複数の専門医 による診察が必要となることもあります。
HRT(ホルモン補充療法)は低下したエストロゲンを補う治療で、内服薬や下腹部の皮膚から薬を吸収させる貼付剤、 肌に塗るジェル剤などがあります。子宮のある人は、エストロゲン製剤に加えて子宮体がん予防のために黄体ホルモン製剤を併用します。 子宮筋腫や子宮内膜症等の病気で子宮を摘出されている方には、エストロゲン製剤のみで治療を行います。 エストロゲンを補うことにより、様々な更年期症状が改善するほか、骨粗しょう症による骨折の予防、 悪玉コレステロールを減らして善玉コレステロールを増やす効果、血管のしなやかさを保ち動脈硬化症を防ぐなど、 閉経後に起こりやすい病気を予防して、女性のQOLを向上させる治療でもあります。
ホルモン剤と聞くと副作用、特に乳がんを心配される方が多いのですが、海外のデータによると 5年以内のHRTでは乳がんの明らかな増加は認められない、という結果が出ています。 また、子宮のない方が行うエストロゲン単独でのHRTでは、治療年数に関わらず明らかな乳がんの増加は認めないという報告も出ています。 現在、すでに乳がんや子宮体がんなど、女性ホルモンと関係のある病気で治療されている方にはHRTを行うことはできませんが、 そうでない場合、少なくとも5年以内のHRTではむしろメリットの方が大きい治療と考えられています。 今後も日本独自のデータの蓄積など検討が必要ではありますが、ホルモン剤の使用に関わらず乳がんになる女性は日本でも増え続けています。 どの治療法を選択するにしても、乳がん検診だけでなく治療に際しては定期的な検診を行い、安全に治療を継続することが大切です。
HRTが使用できない方の治療として、最近注目されている「エクオール」という物質があります。 これは大豆イソフラボンが腸内細菌によって代謝されて作られる成分で、女性の健康や美容に大切な役割を果たしていることがわかってきました。 しかし残念ながら、日本人の半分は大豆イソフラボンをエクオールに代謝することができません。 エクオールを体内で作れない人は、いくら大豆製品を摂取しても効果が期待できないので、サプリメントとしてエクオールを摂取することが有効です。
漢方薬は、その方の体質に合わせた薬を選ぶことにより、身体全体のバランスを整えて心身を健康にする治療法です。 体質に適した薬を選ぶことにより、更年期障害以外の症状にも良い効果が出ることがあります。ホルモン療法と組み合わせての治療も有効です。
更年期は身体的な変化だけでなく、子供の巣立ちや親の介護など、ご本人を取り巻く環境も大きく変化する時期です。 心理的なストレスから憂うつ、情緒不安定など精神的な症状を訴える方もいらっしゃいます。 不安や焦燥感など精神的な症状が強い場合は、抗うつ薬や安定剤を使用することもあります。
日本女性の平均寿命は80歳を超え、閉経後の約30年をいかに健やかにハッピーに過ごすかが重要な時代となってきました。 更年期をネガティブにとらえるのではなく、女性がキラキラと輝く「幸年期」に変えるためにも、ぜひ我々婦人科医を上手に利用してください。