【第110回】
『アトピー性皮膚炎』治療の最新事情〜新たな治療薬の登場〜
はじめに
アトピー性皮膚炎は、かゆみと湿疹をくりかえす慢性疾患です。世界中で少なくとも1億7000万人以上、日本でも乳幼児の10%、思春期の10%、成人の5%が罹患していると推定されています。近年増加傾向にありますが、新たな治療薬も沢山選択できるようになってきました。

アトピー性皮膚炎の要因と特徴
皮膚のバリア機能が弱いなどの体質による要因とアレルギー症状を引き起こす物質(アレルゲン)などによる皮膚への刺激やストレスなど環境による要因があります。
乾燥肌が特徴で、急性期の病巣部では腫れっぽくジクジクした滲出傾向が強く、慢性期では乾燥してゴツゴツしざらついて硬くなる病変が顕著になります。

皮膚症状
皮膚の乾燥、赤み、腫れ、かゆみが代表的で、特に夜間のかゆみは睡眠障害を引き起こす可能性があります。また、患部を掻いてしまうことで皮膚が傷つき、感染症のリスクが高まることもあります。これらの症状は顔、首、肘の内側、膝の外側などに発生することが多いです。
治療について〜革新的な新薬の登場
以前よりアトピー性皮膚炎に用いられていたステロイド薬やタクロリムス軟膏(商品名「プロトピック軟膏」)、光線治療などは、身体に生じた炎症を抑える治療でした。
これに対し、近年登場したデュピルマブ(商品名「デュピクセント」)などの生物学的製剤や外用薬デルゴシチニブ(商品名「コレクチム」)、ジファミラスト(商品名「モイゼルト」)などの外用剤は、かゆみや炎症が生じる前に抑え込む薬です。
免疫システムのうちアトピー性皮膚炎の発症・増悪に関わる部分を狙い撃ちにする医薬品が開発されたことで、よりピンポイントかつ効果の高い全身療法が可能になってきました。
新薬〜生物学的製剤、JAK阻害薬、PDE4阻害薬、AhR調整薬
いずれの薬も「炎症性サイトカイン」という皮膚のかゆみや炎症を発生・悪化させる物質に作用して効果を発現します。特に注射薬の効果は高く、長期間アトピー性皮膚炎を患っていた患者さんから「皮膚炎によるストレスがなくなって、生活が変わった!」という声も多く聞かれます。

革新的な効果をもたらす新薬ですが、注射薬は3割負担で1本1万6000円程度、塗り薬飲み薬もステロイド薬や抗ヒスタミン剤より高額になります。患者さんによっては高額療養費、会社の付加給付が適用になる場合もあります。
最後に
アトピー性皮膚炎は正しい情報とケアを行うことで症状を管理し、生活の質を向上させることが可能です。治療のゴールは、症状の消失、もしくは症状があっても軽微で日常生活が普通に送れ、薬もあまり必要としない状態を維持していくことにあります。周囲の理解とサポートも重要であり、治らない病気と諦めず、皮膚科専門医と連携しながら対策を行うことが大切です。
引用イラスト:マルホ株式会社様の皮膚のイラスト素材集より