病気の話

【第112回】
下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)をご存知ですか?

 「足の血管がボコボコとふくらんで気になる」「夕方になると足が重くてだるい」「足がむくみやすく、夜にこむら返りが起こる」??これらの症状、もしかすると下肢静脈瘤かもしれません。

 下肢静脈瘤は、足の表面近くを走る静脈がふくらんでコブのように浮き出る病気です。原因は、静脈にある“逆流防止弁”の故障。血液は心臓に戻るはずが、壊れた弁のせいで逆流し、重力に従って足にたまり、血管がこぶ状にふくらんでしまうのです。滞った血液は老廃物を多く含むため、放置すると「皮膚の色素沈着(くすみ・黒ずみ)」「湿疹」「潰瘍」などの皮膚トラブルへと進行することもあります。

 発症の原因としては、長時間の立ち仕事やデスクワーク、妊娠、加齢、遺伝などが挙げられます。とくに女性に多く、男女比はおよそ1:2〜3と言われています。立ち仕事の中でも、移動を伴う営業職よりも、料理人や美容師など「その場で立ちっぱなし」の仕事に従事されている方に多い傾向があります。妊娠中はホルモンや体の変化によって静脈が圧迫されることもあり、出産後に症状が進行する方もいらっしゃいます。

 治療法にはいくつか選択肢があります。初期症状の方には、弾性ストッキングによる圧迫療法が用いられます。これは足を外から圧迫し、血液の逆流を軽減する方法ですが、壊れた弁が治るわけではないため、根本的な治療にはなりません。ストッキングを脱げば元の状態に戻ってしまいます。

 根治を目指すには手術が必要ですが、現在では身体に優しい「血管内焼灼術(ETA)」が主流となっています。これは、血管の中に細い管(カテーテル)を挿入し、レーザーや高周波の熱で内側から静脈を閉じる方法です。2011年に日本で保険適用となり、現在ではほとんどの症例で局所麻酔・日帰り手術が可能です。手術時間は30分程度で、術後の痛みや腫れも最小限。日常生活への復帰も早く、多くの患者さんが満足されている治療法です。

 この治療法は、日本静脈学会が作成した診療ガイドラインでも推奨されており、症状のある一次性下肢静脈瘤の患者さんが対象です。術後は再発防止のため、弾性ストッキングによる圧迫療法を一定期間併用することが望ましいとされています。

 下肢静脈瘤は見た目だけでなく、放置することで生活の質を大きく損なうことがあります。早期発見・早期治療が大切です。「もしかして静脈瘤かも?」「足が疲れやすい」「見た目が気になる」??そんな方は、お気軽に専門医にご相談ください。当院では、診断から治療まで一貫して対応しております。あなたの足元から、健康な毎日を取り戻しましょう。


令和7年8月
井上医院(http://www.asagaya-inoue-iin.com/
井上 史彦

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