【第117回】
加齢黄斑変性
1. 加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)とは
人の目には、カメラで言うところのフィルムにあたる網膜 (もうまく) という組織があり、その網膜の中心には物を見るために重要な働きをする黄斑(おうはん)という部分があります。さらに、その黄斑の中心部分は中心窩(ちゅうしんか)と言い、中心窩は周辺の網膜に比べて、視細胞(しさいぼう=光をとらえる細胞)が高密度に分布していて、文字を読んだりするための精密な働きをしています(図1)。
その黄斑に加齢により異常を来すのが加齢黄斑変性です。そのタイプには2種類あり、単純に視細胞が萎縮(いしゅく)することで視力が落ちる萎縮型(いしゅくがた)加齢黄斑変性(図2:左)と、出血しやすい脈絡膜新生血管(みゃくらくまくしんせいけっかん)ができて、それが破裂して網膜の中に出血や“むくみ”を引き起こして視力が低下する滲出型(しんしゅつがた)加齢黄斑変性(図2:右)があります。
2. 加齢黄斑変性の原因と発症割合
加齢黄斑変性はアメリカでは失明原因の主であり、日本でも近年、食生活の欧米化や高齢者の増加もあってか徐々に増えてきています。九州の久山町で実施された疫学調査によると、1998年では50歳以上の有病率は0.87%だったものが、9年後には1.3%と上昇しており、日本人の失明原因としては緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性についで4番目です。
発症の原因は、はっきりとはわかっていませんが、遺伝的に加齢黄斑変性になりやすい体質の人が、発病に影響する環境のなかで長年過ごすと、病気が誘発されると考えられています。その危険因子として、喫煙・太陽光による酸化ストレス・食生活の偏り等が挙げられていて、これらの体に酸化作用(=加齢作用)を及ぼす習慣等が、加齢黄斑変性のきっかけとなっている事が研究でわかっています。
また、発症割合として男性は女性の約3倍の発症リスクがあり、名前の通り年齢に応じて発症割合が徐々に増えてゆくことも分かっています(図3)。なお、片目に発症した場合、反対側の眼にも発症する割合が40%以上もある(図4)ということで、早期発見・早期治療が重要です。
3. 症状 −視力が落ちるのが一番の症状です−
加齢黄斑変性の病状によって様々な視力低下を引き起こします。基本的には視力が低下するのが特徴ですが、黄斑に水がたまる(網膜の“むくみ“が出る)と “変視” といって物が歪んで見えたり、網膜に大きな出血が起こると “中心暗点” といって、真ん中だけが欠けて見えなくなるといった症状や、出血が眼球内に大きくおきてくると、全体が見えなくなったりすることがあります。(図5)
4. 治療法 −滲出型は眼球への注射やレーザー治療、萎縮型には治療法がないのが現状−
膜が萎縮してしまう萎縮型加齢黄斑変性には今のところ有効な治療はないのですが、異常な血管が原因で視力が低下する滲出型加齢黄斑変性に対しては、異常な血管やむくみに対する治療が有効な場合があります。
その治療には、近年主流となっている、脈絡膜新生血管を委縮させることを目的とした薬物療法である“抗VEGF硝子体注射” (図6:注射と加療前後)があり、他にもステロイド注射や、レーザーによる光線力学的療法(PDT:Photodynamic therapy)等もあります。それぞれの治療について、長所・短所があるので、担当医とよく相談して決定してださい。
5. 病気の経過について
滲出型加齢黄斑変性では発生してくる脈絡膜新生血管が時間とともに萎縮する人もいますが、大半は大きな出血をおこしたり、網膜の“むくみ“が強くなることで徐々に視力が低下してゆきます。中でも大きな問題なのは、それらの出血やむくみで、いったん障害を受けた網膜細胞は再生しないため、永続的な視力障害が残るということです。病状の進行には、急激に視力が落ちてくる方もいれば、数年かかって視力低下をきたす方もいて、人それぞれで個人差があります。
ただし、萎縮型の加齢黄斑変性については、加齢とともに皮膚が老化するように黄斑が萎縮するタイプですので、時間とともに緩徐に視力が低下してくるのが通常です。
6. そのほか −大事なこと−
加齢黄斑変性は加齢変化以外にも、高血圧、心臓病、喫煙、栄養状態などの関与も指摘されていますので、適切な体調管理は黄斑変性の発症を予防する上で重要です。また、早期治療により、ある程度は視力を保つことができるようになってきていますので、定期的な目の検査とともに、視力の低下があるようでしたら速やかに眼科医に相談して病状の判断をしてもらうことです。
また、亜鉛や緑黄色野菜に含まれるカルテノイドの摂取が少ないと加齢黄斑変性を発症しやすいという報告もありますので、日常生活において緑黄色野菜を含んだバランスのとれた食事を心がけてください。
画像出典:「眼科インフォームドコンセント支援システム「iCeye(アイシーアイ):有限会社ミミル山房」より 令和7年12月
うえだ眼科クリニック(http://ueda-ganka.clinic/)
上田 至亮



















