【第73回】
それって本当に五十肩?肩関節周囲炎と腱板断裂の話
肩関節周囲の疼痛や不快感を訴える方は多く、厚生労働省の調査では女性で1番、男性でも腰痛に続く2番目の愁訴となっています。さらには、慢性疼痛の困っている部位に対するアンケートでも肩関節痛は腰痛に次いで2番目、膝関節痛、頸部痛、頭痛より多いのです。今回は、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)とその類似疾患について説明し、自然に治るものや専門医に紹介すべきものを理解していただくために少しだけ勉強しましょう。
最初に五十肩類似性疾患について、4つの病態にわけ、表にしてみました(表1)肩関節の安定性に寄与する腱板に異常をきたす腱板疾患、肩関節が固くなってしまう拘縮肩、腱板やその周りに炎症性の石灰沈着をきたす石灰沈着症、自然に治る五十肩であるインピンジメント(衝突)症候群です。これらの病態はすべて変性(加齢減少)が基礎にあり、外力はあくまでもきっかけに過ぎません。ですから、腱板断裂にしても単純な外傷ではないのです。
表1
腱板疾患 |
機能障害による |
|||
主な |
腱板断裂 |
|
石灰性腱板炎 |
肩峰下滑液包炎 |
痛みの特徴と治療 |
夜間痛が特徴 |
一般的な痛み止めが聞かないくらいの激痛 |
炎症期では頑固な夜間痛・安静時痛 |
炎症性疼痛はあっても軽度であり、動作時痛がほとんど |
診断は、病歴、触診、可動域制限の有無、超音波検査、X線検査、MRI検査で行います。(図1、2)
ここで注意していただきたいのは、MRI検査放射線科読影の腱板損傷と腱板断裂の表記の違いです。腱板周囲に炎症所見があれば損傷、明らかに腱が切れているものを断裂と表記されることが多いのです。すなわち、損傷は拘縮、石灰沈着症、部分断裂でも損傷となります。患者さんで40代の時に腱板痛めたが自然に治ったとお話しされる方がいらっしゃりますが、おそらく断裂でなく損傷だったのでしょう。
では、腱板断裂の話に移ります。
ある論文では、日本のとある村の一般住民664名の検診でポータブル超音波装置を用いて腱板断裂を調査したところ、40歳以下の腱板断裂はなく、50歳代で11%、60歳台で15%、70歳代で27%と 年齢とともに腱板断裂が増加していることが示されています。これは変性と小さな外傷がきっかけである根拠となるでしょう。
では、腱板断裂は自然に治るのでしょうか?
これは腱断裂であるので、形態学的に完全に断裂したものが、元の形に戻ることはないと考えてよいでしょう。ただし、部分断裂や損傷は形態学的にも機能的に回復することができます。
では腱板完全断裂は手術をしないといけないのでしょうか?
わたしは完全断裂であれば手術したほうが良いと考えています。その根拠は
腱板断裂を放置すると、痛みを感じる腱板断裂の55%が約1年で断裂が大きくなる
断裂拡大の危険因子は喫煙、1-2cm程度の小断裂、完全断裂
大きな断裂よりも小さな断裂の方が治癒率は高い
ということが証明されているからです。さらには、大断裂を放置することによってCTA(腱板断裂による変形性肩関節症)に進んでしまう方もいらっしゃいます。
腱板断裂の修復術は当院では全例関節鏡下に行っています(図3、4)また麻酔も斜角筋間にカテーテルを入れて術後疼痛の減少にも力を入れています。
現在の日本では、医療技術の進歩や運動施設の充実、国民の運動意識の上昇などにより健康寿命も少しずつですが伸びてきています。しかしながら、大腿骨近位部骨折などの外傷をきっかけに、介護が必要な患者さんも増加しています。
痛みや運動障害を減少して心身ともに健康でいる時間を増やしていくように、私たちも患者さんと協力していきたいと思います。