【第33回】
紫外線による皮膚障害と光老化
1)紫外線とは
私がかつて子供だったころ(50年程前)には、日焼けは体に良いことで、骨も丈夫になると一般的に思われていました。
しかしながら、近年では全く逆で、日焼けの原因となる紫外線は「百害あって一利あり」(害は多く、利は一つしかないという意味)とまで
皮膚科の医療関係者の間では公言されています。
それでは、百害もある紫外線とはそもそもどのようなものでしょうか?
太陽光は、波長の長い方から
1)42%の赤外線、
2)52%の可視光線、
3)6%の紫外線(UV: Ultraviolet)、
に分かれています。1)の赤外線は炬燵などの暖房器具で言葉としては日常生活でも馴染み深いと思います。
2)の可視光線とは、言葉が難しいですが日常、私たちが物をみることができるのは、実は、この可視光線が物に当たって反射してきた光を
眼の網膜で感じて物として見えています。
夜になると物が見えなくなるのはこの可視光線がなくなるからです。
そして、3)の紫外線は眼には見えません。波長の長い方からUVA(400〜315nm)、UVB(315〜280nm)、
UVC(280〜100nm)の3つに分けられます。
ほとんどのUVCはオゾン層で吸収されて地上に届きませんが、UVBの一部とUVAは地上に届いて
人体に対していろいろな影響を与えます(図1)。
(図1) ほとんどのUVCはオゾン層で吸収されて地上に届きませんが、 UVBの一部とUVAは地上に届いて
人体に対していろいろな影響を与えます。
2)紫外線量の変化
紫外線の強さは季節や時刻、天候や地理的条件で変化します。
年間で4月から9月に1年の約70〜80%が、日内では太陽の南中する正午をはさむ前後2時間(10時から14時)が強くて
1日の60%程が地表に降り注ぎます(図2)。
(図2) 4月から9月に1年の約70〜80%が、日内では太陽の南中する正午を
はさむ前後2時間(10時から14時)が強くて1日の60%程が地表に降り注ぎます。
また、紫外線量は、薄曇りの場合は快晴時の80%もありますが、雨の場合は30%程になります。
地理的影響は、南に行く(緯度が低い)程強くなり、沖縄と北海道では年間の紫外線量で2倍ほどの差がみられます。
反射光の影響も重要であり、砂浜は25%、新雪は80%も反射します。
一方、日陰では日向の50%に、屋内では屋外の10〜20%にまで弱まります。
3)人体への紫外線の影響
紫外線の影響を端的に表したら「紫外線 百害あって 一利あり」となります。
一利はビタミンD合成です。
ただし、通常の食事をしていれば、一日の必要量の合成には両手の甲程の面積を15分程日光に当るか、日陰で30分過ごす程度で充分で、
それ以上当てても合成量は増えません。
ビタミンD不足を懸念して積極的に日光浴を推奨する必要はなく、食事で摂取するように心掛けましょう。
一方、百害は何でしょうか?
紫外線の急性障害としてUVBによる日焼けがあります(図3-A, B)
(図3-A) 紫外線の急性影響(日焼け)
サンバーン(sunburn):UVBによる反応真っ赤になって、
水ぶくれができることも2〜3日で消える
(図3-B) 紫外線の急性影響(日焼け)
サンタン(suntan)
即時型黒化:UVA による 遅発型黒化:UVBによる
これは、土壌中や屋外の雑菌を殺菌する効果と同じで、紫外線による細胞DNA障害によるものです。
通常、夏至の頃に正午頃に20分もすると日焼けが始まり、さらに浴び続けていると数時間後からサンバーン(発赤や水疱)が現れ、
その数日後にはサンタン(色素沈着)を引き起こします。
対策としては、サンバーンになったら、まずは患部を冷たいタオルなどで冷やしましょう。
痛みや炎症の程度によってはステロイド外用剤の使用が必要になりますので、皮膚科専門医療機関を受診してください。
また、過剰な紫外線曝露で体力低下や免疫抑制を引き起こすことも分かっています。
その例として春休みの合宿、夏場のクラスマッチや全体応援などの際に口唇ヘルペスを発症する児童生徒の存在があります(図4)。
(図4) 口唇ヘルペス:紫外線への暴露などによる免疫低下のため
単純ヘルペスウィルスが活性化するために病気として発症します。
さらに長期的には、シミ、しわなどの光老化(図5)や皮膚癌(図6)の発生が問題です。
特にしわは、自然の経年変化よりも紫外線への皮膚の防御反応により皮膚が硬く厚くなり、その結果、深いしわになります。
(図5) 光老化:シミ、しわなど。自然の経年変化よりも紫外線への皮膚の防御反応により皮膚が硬く厚くなり、
その結果しわも深くなります。
(図6) 皮膚癌:1)基底細胞癌、2)有棘細胞癌、3)悪性黒色腫、の3つの皮膚癌が
原因の一つとして紫外線が証明されています。
皮膚癌としては、1)基底細胞癌、2)有棘細胞癌、3)悪性黒色腫、の原因の一つとして紫外線が証明されています。
また、有棘細胞癌の初期症状として日光角度化症があります(図7)。
(図7) 日光角度化症:有棘細胞癌の早期病変。「赤いシミ」としてみられるのが特徴です。
今までは無かったのにと思うような赤い斑に気が付いたら一度皮膚科の診察を受けてみてください。
顔にできる「赤いシミ」に気づいたら注意してみてください。皮膚科では、ダーモスコープ(図8)を使って皮膚病変を検査します(図8)。
かなりの精度で診断が可能になっています。日光角度化症は、とても早期の癌なので塗り薬や液体窒素の併用などで治療が可能です。
(図8) ダーモスコープ:特殊なレンズを使ってダーモスコピー検査をします。 痛みなどの皮膚への侵襲がなく、皮膚癌の正確な診断ができるようになっています。
写真撮影による画像検査です。
また、眼における紫外線による障害としては、翼状片、白内障の誘因にもなります
紫外線の皮膚障害においては、特に、色白で、すぐにサンバーンを起こすがサンタンを生じにくい人は紫外線の影響を受けやすいので紫外線対策が大切です。
4)紫外線の予防と対策
今や我が国はもちろん、世界中で紫外線の予防と対策がなされています。
人の一生に浴びる紫外線の80%は、18歳までに浴びてしまいます。従って、できるだけ子供のうちから紫外線の予防と対策が必要です。
もちろん何歳からでも手遅れというようなことはありません。
図9に示した極普通のことを是非実践してください。
すなわち、
1. 10時から2時の外出をなるべく避けましょう!
2. 外で活動するときはなるべく日陰を利用しましょう!
3. 日傘や帽子をかぶりましょう!
4. 袖や襟の付いた服を着ましょう!
5. サンスクリーン剤を使いましょう!
6. サングラスやUVカットレンズを使いましょう!
を心掛けてください。
特に、帽子はつばの長さが7cm以上あるものが推奨されています。
サンスクリーン剤は、いろいろありますが、SPF 30以上、PA++以上が理想です。
しかも、2時間毎に塗り直しすることが大切です。1回の量は、顔で1円玉2枚程度が目安です(図10)。
(図9) 紫外線の予防と対策
(図10) 1回の量は、顔で1円玉2枚程度が目安です。
サンスクリーン剤は、幼児では6か月を超えてから使いましょう。
6か月未満では、皮膚も弱いので親が日傘や衣類で保護してください。
また、子供用サンスクリーン剤が販売されていますが基本的には大人の物を使って何ら問題ありません。
ただし、大人でも子供でもサンスクリーン剤によってかぶれることがありますので、初めて使うものは、
念のため3日間、1日2回二の腕の内側で切手の大きさに同じ場所に塗ってかぶれが起きてこないか試してみてください。
以上、紫外線は「百害あって一利あり」をご理解いただけたでしょうか?
是非、百害をおこさないように、明日から実践してみてください。
(日本臨床皮膚科医会編:紫外線と皮膚−学校生活における具体的な紫外線対策〜日臨皮「学校生活におけ
る紫外線対策に関する具体的指針」 環境省「紫外線環境保健指導マニュアル2008」 準拠』 2012年改訂版を
著者が改変しました。)
荻窪 さとう皮膚科
佐藤俊次