【第94回】
加齢性鼻漏について
耳鼻咽喉科の日常診療では、鼻水(鼻漏)は遭遇する頻度の高い症状の一つです。
まずはアレルギー性鼻炎や感冒、副鼻腔炎などにともなう鼻漏をうたがい精査することが必要となります。その多くが薬の内服や点鼻薬などを使用することにより症状の改善または軽減がみられますが、そのなかの高齢者の一部の方に、薬の効果が得られず、水のような鼻漏がとまらない、ティッシュが手放せないなどの症状を訴えられる方がいます。
その一つの原因として鼻粘膜の加齢性変化があるといわれています。
鼻粘膜は、もともと呼吸時に通過する空気に適切な温度湿度を与え調整する働きや咽頭方向へ分泌物を送る働きなどがあります。
鼻粘膜の温度は、通常外気温より高いため吸気時に温度がさがり、呼気時に温度があがるのですが、鼻粘膜の血流量が多く加温機能が保たれている場合には速やかにその温度が回復します。
60歳を過ぎると鼻粘膜に加齢性変化、萎縮がおこりはじめるとされており、それに伴い鼻粘膜の血流量低下などが生じると、吸気で温度がさがった鼻粘膜があまり加温されない状態のまま、体のなかで十分に加湿加温された呼気が通過することになり、寒い日の窓に結露ができるように、呼気が鼻粘膜表面で冷やされ水分が凝結、水滴となり水のような鼻漏となります。
この鼻漏は鼻炎や副鼻腔炎などでみられる体内から分泌される鼻漏とは原因がことなるため、くしゃみをともなわず、鼻漏の量も増減なくほぼ一定、鼻炎用の薬の効果が期待できません。
対策としては、結露対策と同様に温度湿度の管理をすること、この場合には鼻粘膜の加温機能をたかめることが有効となります。鼻粘膜の温度は、皮膚特に下肢の加温冷却と相関することがあきらかになっており、下肢をあたたかく保つことが鼻粘膜の温度を上げることになり症状の軽減に役立つと考えられます。
鼻漏がつづく原因は年齢によっても変化し、多岐にわたります。
症状が改善しない場合には一度近くの医療機関で相談してください。