【第70回】
赤ちゃんの頭の形の話
はじめに
最近街中で、可愛らしいヘルメットをしている赤ちゃんを見かけることはありませんか?今回は赤ちゃんの頭のゆがみ(頭蓋変形)についてお話しさせて頂きます。
赤ちゃんの頭のゆがみ(頭蓋変形)の原因
赤ちゃんの頭蓋変形の原因は大きく2つあり、
「頭蓋骨縫合早期癒合症」などの先天的な頭蓋骨の疾患
「向き癖」が主原因とされる「位置的頭蓋変形」で、外圧により頭の形の変形が徐々に進行するものです。ほとんどのケースがこちらで、頭の形が極度に斜めにゆがむ状態を「斜頭症」と言います。
赤ちゃんの頭のゆがみ(頭蓋変形)が最近注目されてきた理由
本邦では以前から赤ちゃんは仰向け寝の風習で、後頭部が絶壁頭にならないようにする方法としてドーナツ枕が使われていたり、もしくは成長に伴いあまり目立たなくなるからさほど気に留めないとか、親の頭の形が絶壁なので遺伝的なものだから仕方がないとか、半分諦めや笑い話として済まされてきていたように思われます。
しかし1992年米国小児科学会が、赤ちゃんのうつ伏せ寝が乳幼児突然死症候群のリスクファクターとなる理由で仰向け寝を推奨したところ、赤ちゃんの頭のゆがみ(頭蓋変形)の発生率が大幅に増加しました。そしてその後の研究で、なんと極度の頭蓋変形が原因でその後の神経発達や運動発達に遅れが出る可能性があることが分かってきました。
「極度の位置的頭蓋変形」で起こり得る影響
神経発達および運動発達の遅れ
世界の複数の研究結果から、数パーセントの確率と少ないながらも中等度もしくは重度の遅れが認められました。特に認知・言語・適応行動において有意差が目立ったのです。
→要するに必ず遅れが出るわけではないですが、リスクファクターにはなり得ると。顔面の非対称性によって、乱視などの視力異常や眼鏡が掛けにくい等の問題
咬合を含めた顎・口腔の機能不全、歯列異常
見た目・外観上の(審美的な)問題
→特に思春期以降に外見的劣等感・自尊心の低下・抑うつ状態の原因になり得る。
位置的頭蓋変形にならないための予防法
まずは、体位(頭位)を左右同じ向きばかりにしないように替えて行く。
ある程度向き癖がついてしまったケースでは、乳児が起きている時に伏臥位(腹ばい)にして向き癖の反対側を向かせるようにする(Tummy Time)。
注)必ず保護者の厳重な監視下で行うこと!! 離れるときは必ず仰向けに戻して!
ヘルメット治療(Cranial Remolding Orthosis)
上記の予防法によって一定の有効性が報告されていますが、これらを施行しても改善しないような中等度〜重度の頭蓋変形に対して、頭蓋形状矯正ヘルメット治療が行われるようになってきました。
この治療法により「頭蓋変形が簡便かつより短期間に改善される」と報告されています。生後2ヶ月頃から始められ(最近の研究では至適開始時期は生後5〜6ヶ月とも)ほぼ一日中ヘルメットをかぶった状態で過ごし約5〜6ヶ月間継続します。
少し前までは米国製・英国製のヘルメットが主流でしたが、最近は通気性に優れ、比較的軽量の日本製が多く使われるようになってきています。
但しこの治療法には大きな問題点があります。現時点では保健適応されておらず全額自費となってしまうことです(施設にもよると思いますが、少なくとも40〜50万円以上はか
かるようです)。
費用の問題は大きいですが、乳児期にしかできない治療法であることも知っておいていただき、治療希望の折は乳児の頭蓋変形外来を開いている医療機関へ問い合わせてみて下さい。