【第102回】
高齢者の栄養はギアチェンジ!〜サルコペニア・フレイルの予防のために
@ 超高齢社会におけるサルコペニア・フレイルの予防の重要性
2020年の新型コロナウイルス感染症の蔓延により、高齢者の外出機会が3割減少したというデータがあります。このような運動機会の減少は、サルコペニア・フレイルの進行につながると言われています。
サルコペニアとは「加齢による筋肉量の減少および筋力の低下」のことを指します。 フレイルとは「健康な状態と要介護状態の中間の段階」のことです。簡単に言うと、「これまで元気だった方が介護が必要な状態に向かって弱々しくなっていく現象」です。
出典:東京大学高齢社会総合研究機構 飯島勝矢 フレイル予防ハンドブックより
(葛谷雅文. 日老医誌 46:279-285, 2009より引用改変)
私たちは、このサルコペニア・フレイルの予防が健康寿命の延伸や介護予防に不可欠であると考えています。正しい知識を持って実践することで、区民の皆さんが元気に長生きしていただければと思っています。今回は、サルコペニア・フレイルの予防に欠かせない「高齢者特有の栄養の考え方」について、在宅医療で多くの高齢者を診ている医師の立場からお伝えしたいと思います。
A 高齢者の栄養における「ギアチェンジ」の重要性
サルコペニア・フレイルの予防には運動も重要ですが、同時に筋肉をつくるための材料となる栄養が必要です。今回は栄養面について、「ギアチェンジ」の考え方が必要、というお話をします。
日本の健康については、主に若年層に対する生活習慣病予防の啓発が中心です。そのため、「栄養の話=カロリー減や節制」と考える方が多いかもしれません。しかし、高齢者の場合はこうした節制はむしろ害となり、「低栄養・痩せ」を予防することが必要です。
私の臨床経験からも、「高齢者は低栄養・痩せにより筋力および耐久力が減少し、感染症にかかりやすくなったり、筋力低下により転倒リスクが高まる」という印象があります。また、がんの末期の方でもやや肥満の高齢者の方が医師の予測以上に予後が延びるケースが見られ、太っている方が耐久性もあって経過が良い印象があります。
B 高齢者の栄養を高めるための実践方法
では、「体重が減少してきた」「介護が必要になってからも痩せが著しい」という方にはどのような栄養面での心がけが良いでしょうか?
ポイントは2つあります。「好きな高カロリーの食材」と「栄養補助製品の活用」です。痩せてきている方の場合、野菜などの栄養バランスは二の次にして、まずは高カロリーの食べ物を優先して食べていただきたいです。具体的には、甘みの強いアイスや和菓子、卵、好きな高級食材(寿司、うなぎなど)をおすすめします。ベストはその人が昔から好きな食べ物ですので、日々の食事を提供するご家族の支援が重要です。
また、栄養補助製品についても、市販で購入可能なクリミールなどがありますし、処方ではエンシュア・Hやイノラスという飲み物もあります。これらは主治医の先生に相談してみてください。栄養補助製品には様々な微量元素も含まれているので、普段の食事で栄養バランスを維持するのが難しい方にも最適です。
この記事を読んでいる方のご家族に痩せてきている高齢者がいらっしゃる場合は、ぜひ栄養について見直してみてください。