病気の話

【第40回】
円錐角膜とは

はじめに

 今回は、円錐角膜という眼科疾患のお話です。
 アトピー性皮膚炎をお持ちの方には特に、そして皮膚科の先生方にも読んでいただきたい内容となっております。

角膜について

 ものがよく見えるためには、眼球の形状と機能が正常である必要があります。
 角膜とは眼球に映像(光)が入ってくる最初の窓に当たる部分で、カメラで言うとレンズに相当する部分です。 (コンタクトレンズをお使いの方はその角膜にコンタクトレンズを載せています。)
 正常な角膜は光をきれいに眼内に入れることが出来るようなカーブを描いており、上下左右対称に近い形をしています。

円錐角膜ついて

 今回の話題である円錐角膜は、角膜の形状が変形することで視機能に悪影響を与える疾患です。
 風船が膨らんだ形を保つために空気が必要なように、眼球内では水(房水)の産生と排出のバランスによって 圧力(眼圧)がある程度の変動幅内に収まっています。角膜は、車のサスペンションのようにショックアブソーバーの働きで、 眼圧に抵抗して形状を保つようになっております。
 しかし、円錐角膜患者さんの角膜ではこの眼圧に対する抵抗力が弱く、角膜が突出して上下左右の非対称性が崩れてしまいます。
 初期には全く自覚症状がなく正常の方と同じく、メガネやコンタクトで矯正視力がよく出ます。 このように、初期には気づかれない疾患で、高血圧・糖尿病・高脂血症などのように「静かなる病気」(SILENT DISEASE)と言われます。 進行すると眼鏡による矯正では視力が向上しなくなり、コンタクトレンズでも異物感や視力不全などが出現します。
 発症・進行の詳しいメカニズムはまだ不明です。 思春期に発症することが多く、発症頻度は研究報告によってばらつきがありますが教科書的には2000人に1人に円錐角膜をお持ちの方がおられるということです。


図1 角膜形状 左:正常角膜 右:円錐角膜
右の角膜は左の角膜に比べて薄く突出している。

円錐角膜の発見の難しさ

 円錐角膜患者さんの中でもメガネやコンタクトレンズを使用しての視力(矯正視力)がある程度良ければ「乱視が強い目ですね」ということで経過を診られている場合も多いという現実があります。 発見が難しいのには、大きな理由が3つあります。
(1) 眼科に行くと眩しい光で観察されると思いますが、その細隙灯顕微鏡を用いての 検査でもかなり進行しないと判別が難しい。
(2) そもそも疾患の頻度が少なく、積極的に疑わないと見つけることが困難。
(3) 円錐角膜を疑ったとしても確定診断に必要な角膜形状解析装置を有する眼科が少ない。


図2 角膜形状解析結果 左:正常角膜 右:円錐角膜

 地図の等高線を思い出していただくとわかりやすいのですが、正常角膜(左)では色やパターンの対称性が維持されているのに対して、 円錐角膜眼(右)では下に暖色系の色が偏っており(突出して急峻)非対称性が明らかです。
 ちなみに(右)は著者(井手)の角膜です。自覚症状はまったくありませんでしたが(矯正視力も1.2)、偶然に検査で見つかり定期的に観察を続けています。

円錐角膜の治療について

 以前は、個々の角膜の形状に合わせたハードコンタクトレンズを作成しまめに修正を加えながらなるべく進行を押さえようと考えられていました。
 しかし最近の学会の円錐角膜専門分野では、 角膜表面が余計にこすられてしまうことによりインターロイキンなどのサイトカインが生成され、 さらに角膜が薄くなって進行してしまうという意見のほうが優勢になってきています。
 従ってできるだけコンタクトレンズの摩擦を減らすためにも、早いうちに進行を予防する手術(角膜クロスリンキングなど)をして突出の進行を抑え、 こすりにくいコンタクトレンズを装用できるようした方がよいという見解が主流になっております。
 そして、以下に述べます角膜クロスリンキングが世界中で治療の第一選択になっており、実際に多くの手術が既になされています。

角膜クロスリンキングについて

 円錐角膜治療を大きく変えたのが、2003年に登場した角膜クロスリンキングという方法です。
 角膜にリボフラビン(ビタミンB2)を点眼し組織に浸透させ、365nmの波長の紫外線を照射します。 照射時間は眼内の組織に安全な強さ・量としますので、副作用なども少なく非常に安全性の高い治療法です。
 円錐角膜のコラーゲン線維は普通の人に比べて柔らかく変形しやすいため、コラーゲン線維同士の結合を増やして 角膜全体を硬くすることで今後変形しないように固めてやろうという治療です。
 まだ15年の歴史の治療ですが、最近発表された10年の成績では角膜クロスリンキングの効果は少なくとも10年間は保たれ、 また長期的に何かとても悪い影響を及ぼすような合併症も今のところは報告されていません。
 一般に円錐角膜は中年以降になると進行のスピードが遅くなってくる病気ですので、角膜クロスリンキングで10年間進行を止めることができれば、 その後で悪化する確率は低くなるのではないかと考えられています。

円錐角膜進行の早期発見の重要性

 この疾患を早期の段階で発見することが大切な理由をまとめると、以下の3つになります。
(1) 10〜30才代と、通常大きな病気にかかりにくく医療機関に訪れる頻度の少ない時期に大きく進行する。
(2) 最新の治療法である角膜クロスリンキングも、進行の激しい円錐角膜では適応にならない。
(3) 進行すると角膜移植が必要になる。

 現状では、円錐角膜が進行して角膜が薄くなりクロスリンキングが出来ない状況で患者様を紹介いただく現状が多々ありますので 早期の発見が一番大切になります。

特に注目すべきはアトピー性皮膚炎の患者さん

 ある大規模研究では、円錐角膜の患者さんの特徴として、

56 % 男性
13.5 % 親族に円錐角膜
48.2 % 眼をこする人
52.9 % 花粉症やアレルギー 14.9 % 喘息
8.4 % アトピー性皮膚炎
という報告があります。

 また、別の研究結果では、円錐角膜の患者さんの実に53%の方がアトピー性皮膚炎を有していたという報告もあります。
 従って、アレルギー体質の強い方(特にアトピー性皮膚炎患者さん)で、「見えにくく 乱視が強いと言われた」、 「視力の変化の速度が早い気がする」などの患者さんは一度眼科の受診をすることをおすすめします。
 また、皮膚科の先生方には、一度眼科受診を喚起していただけると幸いです。


 
令和元年6月
東京ビジョンアイクリニック阿佐ケ谷(https://tokyo2020vision.com/asagaya/
 井手 武
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