【第54回】
子宮頸がんに絶対かからない方法
子宮頸がんという病気の名前は、どなたでも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。子宮は、女性特有の内臓で、読んで字の如く、その中で赤ちゃんが育つ臓器です。よく間違われるのですが、女性ホルモンを出すのは卵巣で、子宮ではありません。ですから仮に子宮だけがなくても(たとえば子宮筋腫などの病気で切除しても)女性ホルモンのバランスが崩れることはありませんが、子宮がなければ妊娠はしなくなります。なので、妊娠出産の希望がない(あるいは既にお子さんがいらっしゃる)場合は、子宮の有る無しは、さほど大きな健康問題にはならないでしょう。
でも、将来、妊娠出産を希望されている女性にとっては、子宮は無くてはならないものです。もし、子宮頸がんになって気づかずに進行してしまったら、命をおとすか、それは免れても子宮を摘出することになるかもしれません。そうなったらまず二度と子どもを持つことが望めなくなります(今は子宮移植など最先端の研究も現実になっていますが、一般的になるのはまだまだです。)
その子宮頸がん、日本全体では年間11,000人が診断され、このうち3,000人くらいが亡くなられています。中高年以降で増加する他のがんと違って20歳代後半から増加して、40歳代でピークを迎えるのが特徴です。つまり、妊娠可能年齢で罹患する方が増えてきています。
なんとも罹りたくないものですが、大きな原因がHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染であることがわかってきています。(詳細はこの病気の話第34回「子宮頸がん検診について」をご参照ください。)なので、このHPVに感染さえしなければ、大方の子宮頸がんに罹らなくてすむ、という訳です。
そして、予防といえば・・・・・そう、ワクチンです。子宮頸がんに罹らないためには「HPVワクチン」を接種すれば良いのです。HPVは性交によって感染するため、初めて性交する前にワクチンを打つことが理想的です。
日本を除く先進諸国ではとくにオーストラリアでは2007年から、12歳から13歳の女子を対象にHPVワクチン接種プログラムを導入し、接種率増加に伴い2009年以降は18歳未満の子宮頸部前がん病変の発生率が半減しています。
日本では残念なことに、HPVワクチンは2013年4月に定期接種が開始されてまもなく、同年6月に政府による積極的な勧奨が一時中止されました。けれどもこれは、定期接種できないのではありません。今でも自治体に申し込めば対象者(小学6年から高校1年の女子)は全額公費負担で接種を受けることができるのです。(半年間に全部で3回の接種が必要ですが、自費ですと5〜6万円かかります。)ワクチン接種により、日本では子宮頸がんを6割くらい減らせるといわれています。6割というのは、今まで日本で認可されていたHPVワクチンが、13から16種類あると言われるハイリスク型HPVのうち、16と18のみ(4価といわれるものは低リスクの6と11を含む)を防ぐワクチンだからです。
しかし、ついに2020年7月22日、HPV9価ワクチンが日本でも正式に承認されました。9価ワクチンには16.18.6.11の4価に加えて31.33.45.52.58の5価が加わりました。
承認されたばかりの9価ワクチンを使えば、全子宮頸がんの約9割を防ぐことが期待できます。そうなれば、将来、子宮頸がんで亡くなる方はいなくなることも遠い先ではありません。本文タイトルの「絶対」かからないというのは夢かもしれませんが、「かなりの確率で罹らない方法」として、HPVワクチンをうつ、というのはきわめて現実で有効な方法です。9価ワクチンが定期接種として無料で接種できるようになるまでにはまだ少し時間がかかりそうですが、無料で接種できる定期接種年齢のお子さんを持つ方は、定期接種の期間を逃さないように接種を始めましょう!
HPVワクチンについて日本産婦人科学会より詳細な解説があります。以下のページにアクセスしてご確認ください。
http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4