病気の話

【第122回】
肩に石が!? 〜石灰沈着性腱板炎について〜

はじめに

 「肩に石ですか!?」外来でこのように驚かれることがあります。実際、レントゲン写真で肩の骨ではない部分に白い塊が写ることがあります。その正体の多くは「石灰沈着性腱板炎」と呼ばれる病気です。肩の痛みと言えば「五十肩」や「肩腱板断裂」などが有名ですが、実はこの「石灰沈着性腱板炎」も実は決して珍しい病気ではありません。
 今回は、この石灰沈着性腱板炎について、できるだけ分かりやすく解説します。

病態

 肩関節には、肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋という4つの筋腱からなる「肩腱板」が存在し、肩関節を安定させながら滑らかな運動を行う重要な役割を担っています。
 石灰沈着性腱板炎では、この腱板同士の隙間や腱板の内部にリン酸カルシウム結晶が沈着し、炎症を起こす疾患です。突然の激烈な痛みを生じることが特徴であり、「夜も眠れない」「腕を全く動かせない」と救急で外来を受診されることもあります。一方で、石灰が存在していても無症状の方もおり、その経過はさまざまです。
驚くべきことに、石灰が消失、吸収される時期、すなわち治癒していく過程で、逆に急激な炎症を生じ非常に強い痛みを引き起こすことが特徴です。

原因・なりやすい人

 石灰沈着性腱板炎の明確な原因は完全には解明されていません。しかし、腱の血流低下や加齢性変化、繰り返される微小損傷などが関与すると考えられています。
 好発年齢は40?60歳代で、比較的女性に多いことが特徴です。また、糖尿病や甲状腺疾患との関連も報告されています。
 成人の約3?8%程度と比較的多くの人に石灰沈着が認められるとされますが、そのうち症状を呈するのは一部のみです。ですので、肩に症状のない人でも石灰を持っている方が比較的多くいらっしゃいます。

症状・診断

 石灰沈着性腱板炎の最大の特徴は、「突然発症する強い肩痛」です。時に骨折を疑うほどの激しい痛みを呈します。特に夜間痛は強く、睡眠障害を伴うこともしばしばあります。また、石灰が存在する部分を触ると強烈な痛みを感じます。
 いわゆる五十肩(肩関節周囲炎)のような“肩が硬くなって動かせなくなる拘縮”と異なり、急性期では“痛みのために動かせない”ことが主体であり、肩の拘縮が中心ではない点が特徴です。ただし、炎症が長引くと二次的に拘縮を生じ、五十肩のような状態になることもあり注意が必要です。
 診断にはレントゲン写真が非常に有用で、多くの場合その場で診断可能です。また、超音波検査(エコー)では石灰の位置や性状を動的に確認でき、外来で迅速に評価できます。MRIは腱板断裂の合併や周囲炎症の評価に有効であり、症例によって追加されます。

治療

 石灰沈着性腱板炎の治療は、まずは保存治療を行います。
 急性期には消炎鎮痛薬や注射治療が有効であり、特に石灰周囲の肩峰下滑液包へのステロイド注射は疼痛改善に高い効果を示します。また、強い炎症が落ち着いた後には、拘縮予防のためや腱板への損傷軽減のため肩の動きを改善するリハビリ行います。
 近年では、超音波ガイド下穿刺吸引も広く行われています。これはエコーで石灰を確認しながら針を刺し、生理食塩水で石灰を砕き吸引する方法です。比較的大きな石灰に対して有効であり、早期回復に有用であることが報告されています。当院でも多くの患者様に超音波ガイド下穿刺吸引を行っており、多くの患者様で症状の改善を認めています。(図)



 石灰沈着性腱板炎は自然軽快することも多く、保存治療のみで改善する症例が多数を占めます。しかし、一部では痛みが遷延したり、石灰が大きく残存したりすることがあり、その場合には手術療法を検討します。現在では関節鏡視下手術が主流であり、小さな傷で石灰を摘出することが可能です。関節鏡手術は低侵襲であり、術後成績も良好とされています。また、石灰除去後に大きな腱板欠損を認める場合には、同時に腱板修復術を追加することもあります。

まとめ

 石灰沈着性腱板炎は、「肩に石ができる!」というインパクトの強い病気ですが、適切な診断と治療によって改善が期待できる疾患です。特に急性期には非常に強い痛みを生じるため、「突然肩が激痛で動かなくなった」という場合には、本疾患の可能性を考慮する必要があります。
 また、「五十肩だと思っていたら実は石灰沈着だった」というケースも少なくありません。レントゲンやエコーを用いて外来ですぐに診断可能なことも多いため、症状が強い場合や長引く場合には、肩関節専門医による診察をおすすめします。




令和8年6月
しらさわ整形外科(https://shirasawa-orthopedics.com
白澤 英之

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