【第47回】
小児心因性難聴について
耳の組織や構造に病的変化は無い、あるいはあっても原因ではないのに学校の聴力スクリーニング検査等で異常と判定され近くの耳鼻咽喉科でも聴力検査をすると異常な結果が出ることがあります。
本人の難聴の自覚症状はないこともあることもあります。
発症の背景に心理的要因が隠れていることがほとんどと考えられます。
小学生で0.08%(1万人に8人)、
中学生で0.05%(1万人に5人)と推測されると報告があり、
また、男女比は約1:2で、年齢は8歳から10歳前後に多いとされます。
(日本耳鼻咽喉科学会社会医療部学校保健委員会 2000年)
先に述べたように難聴の症状がなく学校検診で突然指摘される場合も多いのですが難聴の自覚症状があり医療機関を受診することもあり発症パターンには2通りあります。
自覚症状があって医療機関を受診する方の中には頭をぶつけた、殴られた、耳元で大きな音がしたなどのきっかけを有する場合もあります。
しかし検査をしてみると鼓膜、内耳、側頭骨にはなんらダメージは無く音の信号は病的損失なく大脳まで伝わっていると考えられます。
一方、難聴の自覚症状が全くないのに学校でのスクリーニング(簡易聴力検査)で異常を指摘される児童、生徒の場合、医療機関の聴力検査でも異常を示すものの、日常生活の会話では特に変わった様子は無く聞こえに問題があるとは考えにくい日常を送っています。聴力検査だけが異常を呈するパターンになります。
近くの診療所等を受診した場合まず純音聴力検査が行われます。その結果が高度難聴であるのに会話が問題なくできる場合、小児心因性難聴と考えて、過度のストレス(過重な習い事など)を軽減するようご家族に助言等してそのまま経過を観察することもあります。
しかし、心理的要因以外の難聴を確かめるために精密検査が可能な大学病院等への紹介が必要になることがほとんどになります。そこでは診療所でも可能な耳鏡による視診、純音聴覚検査のほか、
聴性脳幹反応(ABR)・・・音を聞きながら脳波のようなものが正常に記録されるかどうか。
歪成分耳音響放射(DPOAEs)・・内耳の外有毛細胞由来の音が正しく記録されるかなど
耳や聞こえに関係する組織の構造に病的変化があると異常が検出される精密検査をして詳しく調べます。
心理的要因のみと考えられるときは普段の生活で、本人に心理的ストレス、過度な期待が集中するようなことが無いかなどを保護者にお伺いした上でストレスの改善に向けたアドバイスなどが行われます。人的余裕のある診療施設はカウンセラー等の面談が予約されることもあります。いろいろな考え方はあるのですが、あまりおおごとにせず静かに温かく見守るように経過観察をするとよいこともあります。