病気の話

【第37回】
耳鳴について(補聴器の活用)

 ストレスや疲労がたまった時にキーン、ピーといった耳鳴を感じたことのある方は少なくないと思います。 このような耳鳴も一過性のものであれば、特に病的な意味はないと考えられていますが、一方で常に持続して聞こえる場合には、 突発性難聴、メニエール病、高血圧、脳梗塞などといった疾患のサインである可能性があります。 また、特別な疾患が隠れていなくても、耳鳴が常に聞こえることで、イライラして仕事が手につかなくなったり、 眠れなくなったりしている場合には何らかの治療が必要です。

 一般に耳鳴は、実際に人体から発生している音が聞こえる「他覚的耳鳴」と、音源が明らかにできない「自覚的耳鳴」とに分類されます。
「他覚的耳鳴」には耳周辺の動脈硬化に伴う血流音(シュッシュ等の拍動に一致した音)や口蓋帆張筋等のミオクローヌスによるクリック音といったものの他、 硬膜動静脈瘻、中耳の血管性病変などといった外科的処置が必要な疾患によるものもあります。
一方、「自覚的耳鳴」は、主に内耳や後迷路のダメージによって生じた神経の異常興奮が脳に伝わっているものと考えられており、 キーン、ジー、ピーといった音が代表的です。 「音源を認識できない音」は脳にとっては脅威に感じられるので、時計の秒針の音や喫茶店のBGM等のように聞き流すことができず、 不快感や不安が掻き立てられてしまうため、余計に気になってしまうのではないかと言われています。

 突発性難聴などの急性感音難聴に伴う耳鳴は、治療によって神経のダメージが回復すると消えることが多いのですが、 慢性的に続く耳鳴りの場合には原因になっている陳旧性の神経障害を治すことが困難なことから、「耳鳴を消すこと」も困難です。 そのため、最近では「耳鳴りを消す」ことよりも「耳鳴りを意識しないようにする」ことを目的とした治療が主流になっています (もちろん、耳鳴のためにうつ状態になっているような場合にはまずは精神科の先生に治療していただくことになります)。

 「耳鳴りを意識しないようにする」方法としては、自律神経訓練法などによる脳のリラクゼーションの他、耳鳴よりもやや小さめの音を耳鳴と一緒に 聞き流すトレーニング(音響療法)などがあります。さらに中等度以上の難聴がある場合には、 1)外界からの音情報を少しでもよく聞きとろうするために音に対する脳の過敏性が増しており、耳鳴に対しても過敏になっている、 2)外界からの音が聞こえないために、生活雑音による遮蔽効果が少ないので、耳鳴がより大きく感じる、といった状態であると考えられますので、 補聴器の装用によって、外界からの音情報を増やすことが「耳鳴りを意識しない」状態を作る手助けになると言われています。


 
平成31年3月
耳鼻咽喉科いのうえクリニック(http://www.inoue-jibi.com/
 井上泰宏
↑ページの一番上へ