病気の話

【第55回】
骨質って何?

 骨粗鬆症とは骨折リスクが増大した状態です。

 骨折を防ぐ骨の強度に重要なのは、単に骨のカルシウム量(骨量)だけではなく、骨の性質すなわち骨質の良し悪しなども関わっていると言われています。

 「骨強度」=「骨量(骨密度)」+「骨質」

 その割合は「骨量」が7に対し「骨質」は3です。

 骨と言えばやはりカルシウムを連想します。しかし骨にはコラーゲンという成分も欠かせません。コラーゲンは骨の強度を支える骨質に関わる重要なタンパク質です。

 骨の構造を鉄筋コンクリートの建物に例えると、カルシウムはコンクリートにあたり、コラーゲンは鉄筋にあたります。コンクリートの量だけを増やしても建物は頑丈になりません。鉄筋も増やさなければ、かつての耐震偽装マンションとなり、耐震強度が担保されません。

 建物では鉄筋を規則正しく、しっかりと並べることが重要です。若い人の骨ではコラーゲン同士が規則正しく並びそれを結びつける善玉架橋(建物では梁)によって丈夫で柔軟性のある骨折しにくい骨が作られています。しかし古くなった建物では鉄筋も梁も錆ついてきます。年をとった人の骨ではコラーゲンも劣化しますし、不規則に悪玉架橋が増えて、柔軟性が失われ、硬くて脆い骨折し易い骨に作り変えられてしまいます。

 東京慈恵会医科大学整形外科 斎藤 充 教授は骨粗鬆症には@低骨密度型A骨質劣化型B低骨密度+骨質劣化型の3つのパターンがあり、A骨質劣化型は骨密度が高くても骨折の恐れがあると言います。先生の研究で血液中にホモシステイン(コラーゲンの異常を知るマーカー)が増えると、骨密度が高くても骨折しやすいことや、骨折しやすい人はビタミンB6などが少ないという傾向にあることが分かってきました。

 ホモシステインは酸化されると有害な活性酸素を発生します。健康な人の場合は無害化されます。しかしビタミンB6ビタミンB12あるいは葉酸が不足していると、活性酸素が増加して(酸化ストレス)コラーゲンの劣化や悪玉架橋形成を促進させます。

 ビタミンB6やビタミンB12や葉酸にはホモシステインを減らす働きがあり、骨質劣化を防ぎます。

 また、糖尿病、腎臓病、高血圧、動脈硬化、慢性閉塞性肺疾患と言われたことのある方は骨質劣化型である可能性が高く、ある程度の骨量を保っていても骨折を起こす可能性があることも分かってきました。これらの方は単に骨量を増やすことだけにとどまらず骨質を改善する薬剤*やビタミンD、ビタミンKの併用が有効とされています。*(SERM《選択的エストロゲン受容体調整薬》という骨質を高める薬剤があります。)

 骨量を増やすためには、適度な運動と日光を浴びて(夏なら木陰で30分、冬なら1時間程度散歩)、十分なカルシウムを摂ることが大切です。

 骨質を高めるためには、生活習慣を見直し、過剰な糖分の摂取を控えて、ビタミンB6(レバーや鮪(赤身))、鮭、鰹、ニンニク、ゴマ、バナナ、アボカドなど)や、ビタミンB12(レバー、秋刀魚、しじみなど貝類など)や、葉酸(海苔、緑茶、枝豆、モロヘイヤなど)を補給することです。

 ビタミンD(魚、きのこ類など)にはカルシウムの吸収を促進する働きがあります。ビタミンK(納豆、緑黄色野菜など)にはカルシウムを骨に定着させる働きがあります。

 骨粗鬆症を防ぐには日常的に各栄養素をバランス良く摂取し、骨量を増やすことと同時に骨質を劣化させない食生活を送ることが大切です。

 「骨量」と「骨質」は骨の強度に関わり、骨粗鬆症の予防や改善にとって大事な要因なのです。


 
令和2年9月
おぎくぼ痛みのクリニック(http://www.ogikubopainclinic.com/
福田 憲昭
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