病気の話

【第39回】
障害者総合支援法のお話

 まず、障害者の表記につきまして、平成21年12月に内閣府に設置された「障がい者制度改革推進本部」での検討会での指針に基づき、 以下の文書でも障害者と表記させて頂きます。御了承下さい。

 日頃、精神科診療所に来院されている患者様には、精神という実体が無い身体機能変調の回復及び健康を取り戻され、 日常社会生活が円滑に過ごせるよう、精神科医は日々尽力しております。

 実体が無いために、なおさら、患者様の自己回復力をどうのように引き出すかを客観的に考える事が、私達精神科医の一番大事な見極めになります。
 患者様自身の自己回復力が治療のエンジン(生命力もしくは心的活力)です。
 休業の勧め、お薬やカウンセリングは、オーバーヒートし、馬力が出なくなったエンジンを、一時的に休ませたり、安全な心地良い環境を作りエンジンを切って頂く。 冷却剤も、必要があれば加え、無理したためオーバーヒートを起こした状況の点検する、が治療です。

 実体の無いものが、壊れるという概念は、そもそも存在致しません。
 その証として、大変な病状の統合失調症、躁うつ病、うつ病でも、MRI等の形態検査、SPECTのような最新の機能検査で、異常所見は見つかりません。
 殆どの方は、快調なエンジンに戻ります。壊れていないのですから。
 しかし、全く壊れていないエンジンでも、再始動したらアイドリングが一定せず、高回転になったり、唐突に止まったり。再始動しても、 以前のように回転しない、低回転に留まってしまう。直ぐまた、オーバーヒートしてしまう。異音がするので、エンジンそのものをかけたくなくなるで、 幾ら努力されても回復不可能に。残念ながら精神障害になります。
 車であれば、エンジンの交換で解決するでしょうが、精神という人間種だけが持てた、生物体の高度高次身体防衛制御機能の交換は、 車のようには残念ながら行かないのは、当然の事です。

 精神科は、障害者の皆様と一番密接に関わりを持つ医療現場です。 その理由は、精神という実体が無い身体機能であるがため、時代(長寿命、電子産業革命、戦争)、 環境(政治、自然災害、経済動向、低所得者増加、ロストジェネレーション世代問題)、文化(教育、IT→AI化、電子ゲームの影響、発達障害者の増加)、 科学(医学の進歩?、医療社会福祉制度の歪み)、精神感応(家族関係及び人間関係全般の希薄化及び孤立化、 道徳的価値観の変化、プライド第一主義台頭)の影響により、全快出来る同じエンジン(精神病態が治る)でも、 時には、回復不能となる。精神の実態さえ解らない医学の研究では、その理由の解明すら出来ない、 更に、医学的治療法も確立出来ないためです。
 最近にはWHOが、ファミコン、コンピューター、スマートホーン系の電子ゲームを、病気としての疾患認定もしくは後遺障害の把握のため、疾病扱いする準備を開始しております。

 でも精神医療現場にも、困った時代が、最高の追い風が吹かせてくれました。
 それが、障害者総合支援法の登場です。どのような制度でしょうか。
 簡単に説明すれば、上記の不調のエンジンに、小さなモーターを付けるシステムです。
 
 一つで効果がなければ複数付ける。更にモーターは、上手に電子制御される。ハイブリットエンジンの登場です。
 一部私見で恐縮ですが、一番目のモーターは、精神科の医療通院補助制度及び障害者の各種生活支援。 2番目のモーターは、在宅医療支援。3番目のモーターは、障害者の社会適応及び復帰支援、 4番目は、障害者の就労移行及び継続支援、5番目は、モーターでもありますが、 電子制御機構を持つ相談支援事業(杉並区では3カ所の障害者地域相談支援センター、スマイルと相談支援事業所です)
 難病、知的、身体、精神障害者(発達障害も直近の法改正で対象となりました)が対象です。

 サービス利用については、1)杉並区障害者施策課もしくはスマイル(障害者地域相談支援センター)に「障害支援区分」の認定の申請。 申請後は、精神科の主治医に意見書(診断記載書)が送られ、杉並区に返送され、その後、御自宅で区の調査員が伺います。 2)障害区分認定後は、障害者相談支援員の専任。3)障害者相談支援員とで、障害程度と生活状況で、どのような支援が必要か、 御本人が就労等を希望している時には、どのようにステップを踏むか相談して、プランニング。プランのもとサービスを開始していく手順です。

 サービスの種類としては、就労移行支援事業(PC技能取得等の技能訓練、労働習慣確立、コ ミュニケーションスキル向上等)を併設している作業所が区内に多くあります。 精神障害者に対しての研修受講した専門のヘルパーの在宅支援、精神科ディケア、ショートステイ、グループホームも利用出来ます。 精神科専門とする訪問看護ステーションも区内に数カ所となり増えて来ております。

 サービスの費用は、応能負担性を原則とはしておりますが、世帯収入等が勘案され、 心身障害医療費助成制度(自立支援医療等)や各自治体で独自での財政支援がなされ、利用費用の負担軽減となっております。

 特に杉並区は、障害者施策が、都内では一番進んでおり、障害者支援区分の認定では、都内で初めて、 全在住障害者対象者に行われたと伺っております。
 介護保険と同様な制度ですが、障害により、生まれた時から一生の支援も必要とするケースも多々あり、 医療人がシステムの中核を担う必要がある制度です。

 現在、杉並区精神科医会では、区内精神科開業の各診療所及びその診療所の近隣の訪問看護ステーションの看護師さん、 その診療所近隣の調剤薬局の薬剤師さんとのチームワーク作りを始めております。 ハイブリットエンジンに、水素システムが組み入れられるよう、日々研鑽、努力していく所存です。


 
平成31年5月
医療法人社団野崎クリニック(http://www.nozaki-clinic.or.jp/
 野崎純
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