【第51回】
マラリアってどんな病気
マラリアと聞いてどのような病気を思い浮かべるでしょうか。イタリア語で「mal(悪い)+aria(空気)」が語源になっていることをご存じだったでしょうか。
「熱帯・亜熱帯地域の感染症」「蚊が媒介する寄生虫」あるいは「海外でかかると、時に命にかかわる病気」といったイメージが思い浮かぶでしょうか。ヒトの遺伝子に入り込み増殖を繰り返す、より小さなウイルスとは違い、マラリアはヒトの血液中にある赤血球に寄生する様子が顕微鏡で観察ができる寄生虫(原虫)です(写真参照)。そしてマラリアは結核、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)と並ぶ、世界3大感染症の一つです。国内での流行例は1950年代以降なく、多くの日本人の関心の外にあるかもしれません。
しかし、現在も朝鮮半島を含むアジアやアフリカ、中南米などに流行地が分布しています。新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な拡大で、国際的な感染症に関心が集まっているかとも思います。それだけに人類に脅威をもたらすマラリアにも目を向けていただきたく、紹介させていただきます。
マラリアと薬剤耐性
ヒトに感染し高熱などの症状を引き起こすマラリアは5種類が知られており、中でも熱帯熱マラリアが代表格です。現在、推奨される治療薬としてアルテミシニン系薬剤があります。この抗マラリア薬の開発を担った1人、中国人の女性科学者、屠??(トゥ・ヨウヨウ)氏は2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞し、功績が称えられています。このアルテミシニンは、ベトナム戦争を背景に1960年代後半〜1970年ごろ、中国で薬草からの抽出成分として秘密裏に開発され、2000年代以降、普及してきています。ではなぜ、今でも世界で年間約2億人がマラリアに感染し、うち60万人余が命を落としているのでしょうか。
難題の1つは、これまでに開発されてきたクロロキンなど旧来の抗マラリア薬に対し、耐性を有するマラリアが次から次に出現し、「いたちごっこ」となってきた面があります。同時に蚊の生息する淀んだ池や水たまりなど衛生環境の改善の難しさ、治療を受けたくても受けられない貧しい人々の多い途上国の現実もあります。1種類だけの薬の使用が耐性の出現を招いた反省から、アルテミシニン系を含む複数薬剤での治療が推奨されてはいますが、現地では安価で容易に手に入る旧来の薬剤1種類だけの使用が横行したりして、実際の撲滅は容易ではありません。
まずは情報収集
これから海外のマラリア感染地域へ出かける方もおられるかもしれません。蚊が媒介する感染症には、ほかにもデング熱やジカ熱、またチクングニア熱、黄熱など多種あります。
実は蚊の種類によって媒介する病原体が異なり、熱帯熱マラリアの場合はハマダラカが媒介します。いずれにしても河川、池・湖沼地帯近くでは蚊対策が必要です。蚊よけのスプレーも、より効果が高いものを選び、場合によっては蚊帳(かや)なども使用し、蚊に刺されないように努めましょう。
かなりの期間、派遣・駐在などで現地での生活が避けられない場合、あらかじめ情報収集に心がけましょう。感染症専門医とよく相談した上で、国内でも予防内服薬を処方してもらうこともできます。
参考:
厚生労働省検疫所 マラリアについて https://www.forth.go.jp/useful/malaria.html
アメリカ疾病管理予防センター(CDC) Yellow Book Chapter 3、Malaria(英文)
https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2020/travel-related-infectious-diseases/malaria
写真@顕微鏡でマラリアをチェックする検査技師(パプアニューギニア・マダンの大学研究所)
写真A赤血球に寄生する熱帯熱マラリア(半円状に紫色に染まっているのがマラリア原虫)