【第77回】
糖尿病からくる眼の病気
40代の男性が「最近眼が見えづらい」と眼科を受診されました。
眼底検査をすると、眼の奥に多数の出血が見られました。(図1)
採血の結果、糖尿病がみつかり、内科で治療を受けていただくこととなりました。
患者さんは、数年前から健康診断で糖尿病を疑われていたものの、自覚症状がないので放置していたとの事でした。
糖尿病の3大合併症
糖尿病は自覚症状の少ない病気で、発見や治療が遅れがちですが、病状が進行すると
・糖尿病腎症
・糖尿病神経障害
・糖尿病網膜症
を発症します。これらは糖尿病の3大合併症と呼ばれています。
糖尿病網膜症は、放置すると失明に至る恐ろしい病気です。
糖尿病網膜症
糖尿病により血管がダメージをうけると、血管の壁から血液の成分が漏れたり、細かい血管が詰まったりして、眼の奥に出血が始まります。眼の中心近くに出血したり、中心部にむくみがおこる「黄斑浮腫」の状態になると、急激に視力が低下します。自覚症状が出る前に治療を開始しなければなりません。
糖尿病網膜症の治療
糖尿病により血管が閉塞し、酸素不足となった網膜からは、「血管内皮増殖因子」という物質が放出され、眼内に血管が生えてきます。これを「新生血管」と呼びます。新生血管は壁がもろくて出血しやすく、大量に出血した場合は、出血を取り除く手術が必要となります。
新生血管が生えてこないように、血管内皮増殖因子を放出する網膜細胞をレーザーで灼く治療(網膜光凝固術)を行います。
レーザー治療が功を奏し、血糖がコントロールされれば、網膜症は次第に落ち着いて、失明を免れる事ができます。
レーザー治療は1回では終わらず、何回も繰り替えして行う必要があるので、通院の負担や費用の負担が大きいとの理由で、治療を中断してしまう方が多く見られますが、糖尿病網膜症が進行してしまってからでは、レーザー治療では進行を食い止めることができず、手術を必要とする状態になってしまいます。
糖尿病網膜症の中でも眼の中心部(黄斑部)にむくみがでる黄斑浮腫に対しては、副腎皮質ホルモン、あるいは血管内皮増殖因子阻害薬の注射を行います。この注射は1回行えば永久に効果があるというものではなく、繰り返して行う必要があります。(図2)
「眼に注射」と聞くと、受け入れがたく思われるかもしれませんが、麻酔の目薬をしてから注射をしますので、手足の注射ほど痛くはありません。また、顕微鏡のまぶしい光の下で注射を行いますので、注射の針先が見えるということもありません。
黄斑浮腫を放置すると、網膜の細胞が次第にダメージを受けて、視力が回復しなくなってしまいますので、しっかり治療を行う必要があります。
以上は通院で行える治療ですが、これらの治療を行っても進行を止められない場合は、入院・手術が必要となります。
その他の眼合併症
糖尿病からくる眼の病気は、他にも
・血管新生緑内障
・虚血性視神経症
・眼筋麻痺
・白内障
・角膜障害
・虹彩・毛様体炎
など多岐にわたります。
この中でも、血管新生緑内障や虚血性視神経症は、とりわけ治療が難しく、視力のダメージが大きいので、このような合併症を起こさないために、しっかり血糖コントロールを行わなければなりません。
視力低下から糖尿病が見つかった患者さんは、レーザーと注射・手術を行って、視力を維持することができました。網膜症が落ち着くのに3年かかりました。(図3)
糖尿病網膜症は、早期発見・早期治療開始が大切です。糖尿病と診断されたら、必ず眼科を受診してください。