【第87回】
NASHについて
一般に肝臓の病気というと、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスなどの肝炎ウイルスによるウイルス性肝炎やお酒の飲み過ぎによるアルコール性肝障害などを考えますが、最近、それらに関係なく発症する肝臓病として、非アルコール性脂肪性肝疾患や非アルコール性脂肪肝炎が注目されています。それらは、進行すると肝硬変や肝がんになる恐れもあります。
近年、わが国においては、C型肝炎の減少に伴い、非ウイルス性肝疾患、特に非アルコール性脂肪肝炎を基盤にした肝細胞癌が増加しています。非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease : NAFLD)はわが国だけで約2千万人いると推定されていますが、10年でNAFLDからは約0.44%、非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)からは約5.3%と推定されており、発がん頻度はそれほど高くありません。しかし、成人の2〜3割がNAFLDであることから大きな問題となっています。
非アルコール性脂肪性肝疾患の原因のほとんどは、生活習慣の乱れやストレス、運動不足など、メタボリックシンドドロームの原因と似ています。
さらに、非アルコール性脂肪性肝疾患の発症や進行には肝臓の脂肪組織、遺伝的な素因、酸化ストレス、腸内細菌など、いろいろな要因が合わさって発症することも明らかになってきました。したがって、決して肥満ではないのに、非アルコール性脂肪肝炎であるひとも決して少なくはありません。
さらに最近では、成人だけではなく、小児や若年者における肥満の増加によって、非アルコール性脂肪性肝疾患が増加していると推測されています。
非アルコール性脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎を発症し、肝臓の細胞が長い時間壊れ続け、進行すると次第に線維化を起こし肝臓はだんだん硬くなっていきます。さらにこれを放置すると、10年後には約1〜2割が肝硬変になり、肝硬変にまで進行すると年率で数%に肝がんが発生すると言われています。また肝硬変まで進行していなくても肝がんが発症してしまうこともあります。
肝細胞がんの原因は2000年ころまではB型肝炎とC型肝炎といったウイルス性肝炎が主たる原因でしたが、2000年以降は非ウイルス性が増加してきています。また、発がん年齢も高齢化しています。
また脂肪肝は、糖尿病や高血圧症、脂質異常症等といった生活習慣病や脳梗塞や心筋梗塞の原因と言える動脈硬化とも密接に関係しています。日本人の人間ドックの調査では、成人の約3割が脂肪肝を発症していたと言う報告もありますが、この段階で放置しないで、脂肪肝の時点で病気を治すことが大切です。
そのためには、食習慣や運動、睡眠など生活習慣の改善をすることが大切です。食事はバランスよく、一日の総摂取カロリーを適正に保つことが有効です。最近では一部の薬剤で非アルコール性脂肪肝炎を改善する効果が認められてきています。
健康診断等で、肝機能障害を指摘されたときは、放置するのではなく、一度医療機関を受診して相談されてみてはいかがでしょうか。