【第107回】
目と帯状疱疹
帯状疱疹の原因は水痘・帯状疱疹ウイルスです。このウイルスに初めて感染したときに起こる病気が水痘(別名 みずぼうそう)で、多くは9歳以下の子どもがかかります。一方、帯状疱疹は水痘にかかったことのある人の免疫力が下がったときに、神経節に潜んでいたウイルスが出てくることで起こります。
「虫刺されと思いました」、「じんましんと思い、アレルギーの薬を飲みましたがよくなりません」、「ニキビと思い、つぶしたら広がりました」、「目にも帯状疱疹ができるのですか?」、これらは帯状疱疹と診断した患者さんからお聞きした言葉です。おでこや眉毛から上まぶたや鼻に至る領域は、三叉神経第1枝の領域と言われ、この領域に生じる帯状疱疹を特に「眼部帯状疱疹」と呼びます。引用文献の58ページから転載した下記写真をご覧ください。(メジカルビュー社から転載許諾済 下村嘉一先生の御厚意による)

三叉神経第1枝は、滑車上神経や鼻毛様体神経などの枝を出して、眼球に広く分布していることが、眼部帯状疱疹で眼合併症を生じる理由です。
眼部帯状疱疹では、最初にまぶたが腫れて、2〜3日後に帯状疱疹に特徴的な発疹が出てくることが多いです。「まぶたが腫れたので、家にあった軟膏を塗ったら悪化しました」と受診された患者さんがいらっしゃいましたが、自己判断で薬を使用することは危険です。まぶたが腫れる原因には、帯状疱疹の他にも、麦粒腫や悪性リンパ腫などの様々な疾患があります。
帯状疱疹と診断した時点ですぐに内服薬による治療を開始しますが、水痘・帯状疱疹ウイルスの増殖を抑える効果が出るまでには時間を要するので、治療を開始してからも、目が充血して、かすんで見えるようになるぶどう膜炎や角膜炎を起こすことがあります。眼瞼結膜炎は多くの例に生じますし、眼圧が上昇して続発緑内障になることもあります。下の写真のように、三叉神経からの栄養が届かない角膜炎となり、白い濁りを残すこともあります。これを栄養障害性角膜潰瘍といいます。

帯状疱疹が治ってきてからも、数週間は眼合併症に注意が必要です。例えば、物がだぶって見えるようになる眼筋麻痺を起こすことがあり、油断禁物です。また帯状疱疹は体のどこに生じても、後遺症として起きる神経痛はとてもやっかいな状態に陥りますので、しっかりと治療を受けましょう。
帯状疱疹ワクチンについては、病気の話の第82回「帯状疱疹について」にて原田皮膚科クリニックの原田栄先生がわかりやすく説明していますのでご参照ください。
帯状疱疹と診断されたら、眼合併症のチェックを受けるために、眼科専門医を受診しましょう。
引用文献:
「水痘・帯状ヘルペスウイルス感染症」 下村嘉一
眼の感染・免疫疾患(正しい診断と治療の手引き)
編集:大野重明 大橋裕一 メジカルビュー社 1997年発行
酒井眼科 酒井 隆介