【第52回】
溶連菌感染症について
溶連菌は、正式には溶血性連鎖球菌と呼ばれる細菌で、細胞膜多糖体の抗原性とヒツジ赤血球加血液寒天培地上の溶血様式(α、β)により分類されています。前者の分類で人の発病に関与しているものは、A群、B群、C群、G群がありますが、一般的に溶連菌感染症といわれているものは、A群β溶血性連鎖球菌による感染症のことをいいます。
飛沫感染(咳やくしゃみからの感染)や接触感染により伝播し、感染から発症までの潜伏期間は2〜5日程度です。主に5歳から15歳の小児にみられ、特に小学校低学年に多くみられます。
症状
感染後早期からみられる急性期症状と数日後にみられる続発症があります。
★ 急性期症状
1 急性咽頭・扁桃炎
4歳以上の年長児では高熱とのどの痛みで発症し、しばしば腹痛や嘔吐を伴います。のどは赤く腫れ、時に小さな出血斑や扁桃に黄白色の斑点がみられることがあります。時に舌の表面が苺のようにブツブツとなる苺舌がみられることがあります。3歳以下の乳幼児では微熱や不機嫌などのいわゆる風邪症状であり、一般的なウイルス感染との区別は困難です。
2 猩紅熱
溶連菌による急性咽頭炎に全身の発疹を伴ったものを猩紅熱といいます。発熱後12〜24時間後に全身に細かい紅い発疹が出現します。皮膚は少しザラザラする感じがあり、かゆみがみられます。発疹は4〜5日で改善していき、皮膚の落屑(皮膚がむけてくる)がはじまり、2週間程度で治癒します。
3 皮膚の感染症
膿痂疹:小さい膿の溜まった発疹ができます。通常、発熱はみられません。
丹毒:顔面や四肢に限局した発疹が出現し、赤く腫れあがり、発熱がみられます。
4 壊死性筋膜炎
皮下組織と筋膜の感染症で急速に筋膜が壊死して生命の危険の高い症状です。
5 劇症型溶血性連鎖球菌感染症
初期症状として全身倦怠感、咽頭炎、発熱、嘔吐、下痢、血圧低下(ショック)、筋肉痛などが出現し、その後ほぼ24時間以内に呼吸障害、循環障害、内臓障害など多臓器不全となり死にいたることもあります。「人食いバクテリア」として報じられ、近年発症報告の増加がみられています。
★ 続発症
1 急性糸球体腎炎
溶連菌感染後2〜3週間後に血尿、蛋白尿が出現し、尿量が低下して浮腫が出現します。血圧が上昇して頭痛や嘔気、けいれんなどをきたすこともあります。好発年齢は4〜12歳で3歳以下にはほとんどみられません。溶連菌感染により体内で産生された溶連菌に対する抗体と菌体成分が結合した免疫複合体が腎臓の糸球体に沈着し腎炎を引き起こすとされていますが、はっきりとした原因は分かっていません。
治療は対症療法が主体であり、急性期は安静と水分、塩分、血圧管理が重要となるため入院加療が必要となります。ほとんどの症例では尿量は1〜2週間で回復し、蛋白尿や血圧は正常化しますが、血尿は半年程度持続することもあります。小児では予後良好ですが、成人で発症した場合は完全治癒率が53〜76%とされており、末期腎不全にいたる重症例も1%前後みられています。
診断は尿異常と血液検査で補体が低下していれば確定します。溶連菌感染後に血尿と補体低下を認める症例は0.5%いるとされているため、溶連菌感染から2週間後程度に尿検査を行われていますが、乳幼児を含めて例に行う必要があるかは議論のあるところとなっています。
2 急性リウマチ熱
溶連菌感染後2〜3週後に自己免疫の関わる一種のアレルギー反応により生じると考えられており、関節、心臓、皮膚、神経系など全身の様々な臓器に炎症反応を示す疾患です。リウマチ熱の診断は1944年に提唱されたJones基準が世界的に採用されていますが、2015年のアメリカ心臓協会においてこの診断基準が改定されました(表)。
近年では溶連菌感染の迅速診断が可能となり、早期の診断、治療が可能となりリウマチ熱と診断される機会は減っていますが、今回の改定では急性リウマチ熱が疑わしい症例では無症状であっても心エコーを推奨しており、今後診断される患者が増加する可能性もあります。
【表】リウマチ熱の診断基準(Jones診断基準 2015年改定)
A. 溶連菌感染 | 初発の場合:大症状2つ または大症状、小症状1つずつ 再発の場合:大症状2つ または大症状、小症状1つずつ または小症状3つ |
B. 大症状 | 心炎(無症状例でも心エコーに所見がある場合もある) 関節炎(多関節) 小舞踏病 輪状紅斑 皮下結節 |
C. 小症状 | 多関節痛 発熱(38.5℃以上) 赤沈60mm/時間以上またはCRP 3.0mg/dl以上 心電図でPR間隔延長 |
診断
咽頭培養検査にて溶連菌が検出されれば診断が確定しますが、結果報告に数日かかるため迅速キットが広く用いられています。感度、特異度ともに高く、陽性の場合には診断の信頼性は高くなっていますが、検出感度は咽頭培養に劣ります。
また、健常な小児の5〜20%が溶連菌の保菌者であるとの報告もあり、検査が陽性であっても特徴的な咽頭・扁桃炎の症状がない場合には起因菌ではない可能性もあるため、臨床症状と検査結果の整合性を考慮したうえでの診断が必要になります。
治療
現在までにペニシリン系抗菌薬、セフェム系抗菌薬に対して耐性を示す溶連菌は報告されていません。よって、咽頭・扁桃炎の治療ではペニシリン系抗菌薬を10日間またはセフェム系抗菌薬7日間が一般的な治療です。5日間治療法が一部で取り上げられていますが、有効性に関して再排菌率が高いとの報告があり、溶連菌の潜伏期間は3〜5日間であるため望ましくないとされています。また、同胞に対しての予防的な抗菌薬の投与は必要ないとされています。
壊死性筋膜炎や劇症型溶血性連鎖球菌感染症ではショックや多臓器不全に進行する可能性が高く、直ちに外科的処置や集中治療のできる施設への入院が必要となります。
溶連菌感染症は日常で遭遇する機会の多い感染症ですが、合併症や続発症の多い疾患のため、的確な診断と治療が重要となります。