【第16回】
ピロリ菌について
ピロリ菌は胃の粘膜に住み着く菌で慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなど胃の病気の主たる原因となります。
胃がんの99%はピロリ菌が関与していると言われています。
ピロリ菌がいる人といない人では胃の病気になるかならないか運命が大きく違いますのでピロリ菌がいるのかどうか知っておくべきでしょう。
1)日本におけるピロリ菌保菌率
一昔前までは日本人の多くが(80%以上)ピロリ菌に感染していましたが時代と共に感染率は低下しています。
現在(2010~2015年)の時点で70才以上の高齢者では感染率が80%くらい、40才未満の若年者では10%くらいと大きく減少しています。
40才から70才までの方はその中間(年齢につれ20〜70%)となります。
ピロリ菌は幼少期に感染し持続するもので成人では感染しませんから、一旦「ピロリ菌がいない」と診断されたら安心です。
ピロリ菌の保菌者が激減すれば胃がんの発生も激減するものと期待されます。
2) ピロリ菌の感染経路
ピロリ菌は井戸水など飲料水、食べ物から感染すると言われてきましたが、衛生環境が整った現在は自然界にはピロリ菌が存在しないため
母子感染が多く70〜80%はお母さんから赤ちゃんへ感染しているようです。
ピロリ菌は幼少期(3〜4才未満)にしか感染しませんからピロリ菌を持っているお母さんが離乳食のときに移してしまうことが多いのです。
次に父子感染5〜10%、その他(飲食物によるものなど)10〜20%と推定されています。
3) ピロリ菌と胃の病気
ピロリ菌はウレアーゼという酵素を持ちアンモニアを発生し胃粘膜に有害な活性酸素や毒素で胃粘膜を傷め胃炎をおこします。 胃炎は持続し長い年月を経て慢性萎縮性胃炎となります。慢性胃炎は胃の痛みなど自覚症状はありません。 胃の粘膜表層には知覚神経がないからです。 大多数は慢性胃炎のままですが3~5%に胃潰瘍、十二指腸潰瘍が発生、約1%に胃がんが発生します。 動物実験によるとピロリ菌+食塩の過剰投与で胃がんの発生が増えるということがわかっています。 また萎縮性胃炎が進行するほど胃がんが増えるとも言われており、萎縮性胃炎が進行する前にピロリ菌を除菌することが望まれます。
4) ピロリ菌の診断
ピロリ菌の診断は尿素呼気テスト、ラピッドウレアーゼテスト、血液、尿抗体法、便中抗原法、検鏡法(胃の組織を取って顕微鏡で調べる)、
培養法などがあります。いずれの方法も一長一短がありますが除菌判定は最もピロリ菌の存在診断が正確な尿素呼気テストを用いるのが一般的です。
しかし実際には内視鏡で胃粘膜を見れば多くはピロリ菌の存在はわかるのです。
ほんとうの胃炎(組織学的胃炎と言います)があればピロリ菌の存在がわかるのです。
また高度に進行した萎縮性胃炎ではピロリ菌が棲息できない環境となりピロリ菌が消滅ないし激減していることがあり、
通常のピロリ菌検査では陰性と判定されてしまうことがありますから要注意です。
このような胃はABC検診のD群(ペプシノーゲン陽性、ピロリ陰性)に相当し胃がんのリスクが高いのでやはり内視鏡検査が大切です。
5)ピロリ菌の除菌
ピロリ菌はとてもしぶとい菌で強力な除菌薬が必要です。
しかも耐性菌が増加しており除菌に難渋することもしばしばです。
一次除菌
PPI(強力な酸分泌抑制剤)
クラリスロマイシン
アモキシシリン(合成ペニシリン)
→ 除菌率 約70% 無効な場合二次除菌となる
二次除菌
PPI(強力な酸分泌抑制剤)
メトロニダゾール
アモキシシリン(合成ペニシリン)
無効な場合三次除菌となりますが保険がききません。
6)ピロリ菌除菌と胃がんの予防
ピロリ菌を除菌すると胃がんの発生が抑制されることが明らかになっています。しかし100%予防できるわけではありません。
萎縮性胃炎があまり進行していない比較的若年者で除菌すると予防効果が大きいのですが
萎縮の進行した高齢者での除菌効果は証明されていないのが現状です。できるだけ早いうちにピロリ菌を除菌することにこしたことはありません。
またピロリ菌を除菌後も胃がんができることもありますから定期的な(2年に一度くらい)内視鏡検診が推奨されます。
運悪く胃がんができても早期がん状態で発見され、ほぼ100%の治癒率が期待できます。