【第90回】
疥癬とは
疾患の概説
疥癬は,ヒゼンダニ(疥癬虫)が皮膚の角質層にトンネルを掘って皮膚に寄生する皮膚の感染症です。そのために疥癬の虫体,糞,脱皮殻などに対するアレルギー反応が起こりとても強い痒みを生じます。
症状
手のひら、手首の皮むけや全身の掻き傷、陰部などに赤い小豆大のしこりを作る皮膚の症状と、夜間の強いかゆみを主症状とします。人から人へと感染し、家庭内や介護施設などで感染が拡大することもあります。皮膚の症状から、通常疥癬と角化型疥癬に分類します。通常疥癬では、雌成虫の寄生数が数匹以下であるのに対し,角化型疥癬では100〜200万匹以上と多いため感染力が非常に強くなります。約1〜2カ月の潜伏期間の後に次の皮膚の変化によって感染に気付きます.@疥癬トンネル(長さ3ミリ程度の白い筋):主として手関節屈側(手首の内側),手掌,指間、指側面など.A紅斑性丘疹(赤いとてもかゆいポツポツ):アレルギー反応による激しい?痒を伴う皮疹で腹部,胸部,腋窩、大腿、上腕などB赤褐色の結節(赤い小豆大の硬いしこり):小豆大結節で男性の陰嚢部、陰茎部の他、臀部など。
原因
疥癬の主たる感染経路は肌と肌の直接接触です。10円硬貨の鳳凰(宇治平等院鳳凰堂の屋根に乗っている)とほぼ同じ大きさの雌の疥癬虫が手指の指間や手首の太いしわの部分の皮膚に侵入しトンネルを掘り進みながら産卵します。4〜6週間1日2〜4個産卵し、3〜5日で孵化,約10〜14日間で成虫となります。
治療
治療はだれにするか?:ヒゼンダニが検出され確定診断された患者さん,または,同居するひとで、確定診断された患者と接触の機会があるひとなどに治療をします。とくに集団生活をしているときなどは、疥癬の確定診断(疥癬虫を顕微鏡やダーモスコピーで確認すること)ができていなくとも疥癬の感染の可能性のある臨床症状を呈する場合(症状の@、A、B)には、早期のうちに治療を行い感染の拡大を防ぎ、最小限の感染者のうちに撲滅することが重要です。
治療:1)イベルメクチン(ストロメクトール® )の内服が基本。
2)フェノトリン(スミスリン® )ローションや
イオウ外用剤やクロタミトン(オイラックス® )クリーム
3)同居家族全員の診察
4)寝具のこまめな交換(疥癬虫は皮膚から離れると数時間で感染力が低下します。
また、高温にも弱く50℃,10分間で死滅します。)
5)清掃(便座にて感染の報告があります)
予防
疥癬虫は、手を中心とした皮膚から容易に侵入します。よって、疥癬に感染している可能のあるひとに接触したり、介護施設などに訪問したときはなるべく早く手洗いをすることが大切です。また、アルコール消毒は有効と考えられます。皮膚症状は、湿疹ととても似ているため区別が付きにくいことがあります。長らくステロイド軟膏を塗布しても中々改善がみられないときは、一度疥癬を考慮して担当の皮膚科の先生に御相談してみてください。ダーモスコピーという器具で観察することで、みつけられますので過度に恐れるような病気ではありません。
文献:石井則久 他. 疥癬診療ガイドライン(第 3 版)日皮会誌:125(11),2023-2048, 2015(平成 27)
写真A 赤い丘疹上にみられた疥癬トンネル
写真B 疥癬虫と卵 顕微鏡画像