【第85回】
デジタル端末と子どもの目の健康について
はじめに
子どもの裸眼視力が年々低下する中、全国の小中学校では「一人一台」のデジタル端末を活用した学習が本格的に始まっています。端末の画面と注視する時間が増えることで、懸念されるのが、目の疲れや近視の進行です。
1.外から入った光が見える仕組み
外界から入ってきた平行光線は、角膜および水晶体で屈折を受け、網膜に明瞭な像を結びます。この状態を正視といいます。近くを見る場合は、眼球の中の水晶体に厚みを加えて光の屈折を強めてピントを合わせます。これを調節といいます。調節は水晶体の周りにある毛様体筋が緊張し、これによって水晶体を厚くすることによって起こります。
2.近視とは
近視とは目に入ってきた平行光線が網膜面より前で焦点を結んでしまう状態です。通常は眼球の前後(眼軸)が長くなってしまうことで起こります。近視であっても、近くを見る場合は調節機能によって水晶体の厚みを加えて屈折を強めれば、網膜面に焦点が合うのではっきり見えます。しかし遠くから来るほぼ平行に近い光線は網膜面の前に焦点を結ぶためにぼやけて見えます。これを明瞭に見るためには、凹レンズ(眼鏡やコンタクトレンズ)を眼球の前に置いて、光の屈折を弱めることによって、網膜に像が結ぶようにします。
3.近視の進行要因
近視の発症には遺伝的要因と環境要因の両方が関与すると考えられています。
遺伝因子として両親が近視の子どもは、両親とも近視でない子どもに比べて7〜8倍近視になりやすいといわれています。
環境因子としては、近くを見る環境は近視化に関係すると考えられます。
眼球のレンズ(水晶体)の周りには毛様体筋という筋肉があり、近くをみるときには、この筋肉が緊張(収縮)し、レンズを厚くして焦点を合わせます(調節)。
この緊張状態が続くと、短期的には調節も過緊張状態(仮性近視)となりますが、これは自然に治りますので、眼鏡やコンタクトレンズは不要です。しかし、毛様体筋の緊張が続くと疲労とは言えないまでも集中力が欠如したりします。
一方で、長期的に緊張が続くと眼軸が伸びてしまい、近視が進む要因になります。黒板など遠方が見にくければ、眼鏡やコンタクトレンズを使うことになります。
4.近視の進行予防
このように、近視の進行は近くを見すぎて毛様体筋の緊張が続くのが原因ですが、その予防として「屋外活動」が重要です。
シンガポールでは2001年から政策として屋外活動キャンペーンを実施し、小学生の近視有病率の低下と維持に成功しています。
台湾でも120分以上の屋外活動プログラムを2010年から実施し、5年間で小学生の近視有病率は50%から45%に低下したと報告されています。
5.一人一台デジタル端末を利用する際の留意点
デジタル端末を使用するにあたり、眼精疲労、近視の進行を予防するために以下の点を心掛けるようにしてください。
・正しい姿勢で、画面と垂直に目を30p以上離す。
・30分画面を見たら1回は、20秒以上遠くを見て目を休める。
・角度調整や反射低減フイルムで映り込みを防ぐ。
・教室の明るさにより、画面の明るさを調整する。
・寝る一時間前には、画面を見ないようにする。
・外でのびのび楽しく活動する。
最後に
デジタル端末を使用した学習の中でも動画の視聴は特に情報量が多く、神経を集中させるので、紙の本を読むより目がはるかに疲れます。子どもは目の疲れを自覚しにくいですが、集中できなくなるなどの症状が出るので、学校や家庭でデジタル端末を過度に使用しないよう周囲の注意が欠かせません。
また、近視の進行は成人してから緑内障、網膜剥離などの眼疾患のリスクになることがわかっています。
これからの学校教育にデジタル端末はますます必要不可欠なものになっていくと考えられます。
正しい使い方をご家庭で話しあってみましょう。