病気の話

【第80回】
おりものと婦人科疾患

おりものとは

 おりものは思春期から認める腟からの分泌物であり、大部分が水ですが一部は腟内細菌が含まれます。医学用語では帯下と呼ばれ、正常な帯下は、透明から白色である程度臭いを伴い、月経周期を通じて量や成分が変化します。帯下には腟粘膜から死滅した細胞を取り除くことで、外陰・腟周辺を清潔に保つ生理的な役割があり、腟内細菌のバランスが崩れた場合に、腟内感染症となります。主なものとして、細菌性腟症と真菌感染症があります。

腟内細菌に関して

 腟内細菌は1892年にドイツ人産婦人科医により報告され、大部分を占める棒状・円筒状の細菌はデーデルライン桿菌と名付けられました。その後の遺伝子解析を用いた研究により、この桿菌は主に4種類存在することが明らかになりました。これらは腟内という酸素が少ない環境で増加し、様々な抗菌作用を示します。これにより正常な腟内細菌が維持され、侵入してくる病原体に対する防御を確立しています。最近の研究では、健常な成人女性のうち25%には上記のデーデルライン桿菌が少なく、様々な細菌が増えていることも示されました。腟内細菌は頻繁に変化し、内的要因(人種、民族、遺伝)および外的要因(ホルモン主にエストロゲン、食生活、衛生週間、ストレス、喫煙)に影響されています。今回はこのような正常の腟内細菌が変化した場合に起こる婦人科疾患に関しての紹介になります。

婦人科疾患との関連

@ 細菌性腟症
 腟内のデーデルライン桿菌が減少し、種々の細菌が異常増殖した病的な状態です。帯下増加,下腹痛,不正な性器出血が3大症状とされますが約半数は無症状といわれています。腟分泌物の肉眼所見は、濃い牛乳を散乱したように、灰色・漿液性・均質性であり、顕微鏡所見は大きなデーデルライン桿菌が減少し、小さめや湾曲した桿菌が増加します(写真)。

細菌性腟症
(The Female Vaginal Microbiome in Health and Bacterial Vaginosis,
Xiaodi Chen et al. Front Cell Infect Microbiol. 2021から引用)

A 性感染症
 クラミジア、淋菌などの細菌や単純ヘルペスウイルス、HIVなどのウイルスは性交渉で感染するため性感染症と呼ばれています。腟内はこれら病原体の侵入口であり、上記の細菌性腟症の場合は、正常な細菌の場合と比較して、性感染症にかかってしまう危険が1.5-4倍に上昇すると報告されています。

B 子宮頸がん
 大部分がヒトパピローマウイルス(HPV)の子宮頸部への感染が原因とされており、このHPVは男性にも女性にも感染する一般的なウイルスです。HPV感染の90%は自然治癒しますが、10%は長期間に感染が持続し、一部は異形成とよばれる前がん病変となります。腟内が正常細菌の場合には前がん病変が退縮し、細菌性腟症の場合は前がん病変が持続する傾向にあり、最終的に前がん病変となるリスクは1.5倍であると報告されています。

C 早産
 妊娠中の細菌性腟症は、妊娠中期の流産、妊娠中の感染症、早産および低出生体重児と関連することが示されています。しかしながら、妊娠中の細菌性腟症に対し抗生剤治療を行ったとしても、すべての早産の発症率が必ずしも低下しないことも示されています。

細菌性腟症の治療

 上記に示したように、様々な産婦人科疾患のリスク因子となる細菌性腟症に対して、産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020では、メトロニダゾールというお薬が推奨されています。また抗生剤投与前の生理食塩水による腟洗浄も、自覚症状の軽減に有効であるとされていますので、症状を認めた場合や、何か不安なことがあればお近くの産婦人科にご相談ください。


 
令和4年12月
河北総合病院 産婦人科(https://kawakita.or.jp/suginami-area/kgh/shinryou/content_sanfujinka/
大橋 昌尚
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