病気の話

【第59回】
Tokyo23区西部こころの医療機関マップのご紹介

 東京都精神科医療連携地域事業が現在行われております。杉並区は区西部保健医療圏(杉並区、中野区、新宿区)に属し、杉並区では、医師会より内科医1名、精神科医1名、杉並区より杉並保健所所長が、会議に参加。この事業の目的は、精神科医療の包括的な連携促進が出来るように協議しております。

 また、この事業では、幅広く精神科の医療機関が検索出来るよう「Tokyo23区西部こころの医療機関マップ」(https://kuseibu-kokoro.jp)を運営しております。

 杉並区内では、当医師会HPにて、区内の医療機関を簡便に検索出来る素晴らしい検索システムがありますが、広域では対応しておりません。

 こころの医療機関マップ内に検索エリアがあり、毎年の利用者を把握出来ている検索の内容について会議上で報告があり、区西部の方々がどのような精神疾患に困られているのか、大まかに把握されております。因みに一昨年は「うつ病」「摂食障害」の検索数が多く、昨年は「発達障害」「カウンセリング」「女医」「土曜日」のキーワードが多かったとの事です。

 今回の病気の話では、このキーワードにつきまして話をさせて頂きます。

1)  発達障害については、1994年にWHOで疾患認定され、平成16年12月には、発達障害支援法が国でも制定しております。
 この法律制定以降、精神科の臨床現場でも診断される患者様が増え、ここ数年はマスコミ等でも発達障害の啓蒙番組をよく見かけるようになっております。発達障害は、大まかにASD(自閉型スペクトラム障害、アスペルガー症候群)、ADHD、LDに分類されます。
 個々に症状の違いはありますが、ASDでは、コミュニケーション障害、知覚過敏鈍感、偏奇な固着執着、表情感情の表出欠落。
 ADHD(注意欠如、多動性障害)では、「幼児期から多動、癇癪が強い。成人となり仕事上では、ケアレスミスが多い、締め切りや約束事が守れない、計画遂行障害、長時間机に向かって事務作業が出来ない」等。
 LDでは、「数の概念の把握が苦手、計算が遅い、誤字脱字が多い、読んでも内容が理解出来ない、整理整頓が苦手」等です。
 知的障害、逆に高い知能指数等の知能、転職が多い事も随伴します。
 ASD,ADHD,LDは全く別な疾患分類ではなく、それぞれの症状が重複される患者様が殆どです。

2)  発達障害の診断では、知能検査を主に他に数種類の心理検査の組み合わせにて行いますが(一般的には公認心理士により)、臨床症状、心理検査の結果、生育歴などの現病歴、遺伝等を総合的に勘案し、医師が診断します。

3)  最近では、発達障害では無いかとの主訴で来院される患者様が増えておりますが、大多数は、発達障害の認識が無く、社会生活上(就業や人間関係上)で、発達障害より起因する、不器用感(生き辛さ)と社会生活上の環境が、あいまり、出現される抑うつ気分(落ち込み感)、不安、不眠、時にはパニック障害、体調の不良感を主訴にて来院。私たち専門医による加療で上記主訴症状は軽減されても、直ぐに再発される、何回も理由不詳で転職され、自信を無くされ、自責的になる事を繰り返してしまう事より、発達障害がベースになっていることが発見される(適応障害とも診断される)事が主です。
 以前には、幻覚妄想が診られず、閉居され、自閉的に生活される統合失調症単純型や変わり者と診られ性格障害として多くの誤診をされておりました。
 また難治性うつ(遷延性うつ)の原因を調べると70%も発達障害がベースになっているとの報告もあります。

4)  私見ですが、発達障害の概念は、側頭葉で構成される言葉概念、後頭葉で構成される視覚概念、海馬を中心とした記憶概念が、何かしらの神経伝達障害にて、TPOでスムーズに精神活動を統合する前頭葉に上がらず、統合事象概念が出来ない。
 そのため事象概念に対して、理解、了解、判断、現実検討、計画遂行、道徳的な判断等のフィードバックが出来ない病態と思っております。
 笑い話でしょうか、本国では行われていないとの事で、中国の留学生が、ADHDの診断のため検査を受けたいと来院、幾ら流暢に日本語を話せても、文化的な価値観の相違や日本語での深い内省は不可能と考え、『う〜っ』とさすがにお断りしました。

5)  発達障害での加療では薬物療法とカウンセリングがあります。発達障害の治療薬は数種類ありますが、全てADHDの治療剤です。またその中には、東京都に登録しないと使えない治療剤もあります。ADHD治療剤をASDに使う先生もおりますが、本来は保険診療では認められてなく(時に効果が診られます)、各先生の判断になります。

6)  検索キーワードで次はカウンセリングの話です。
 医師が行うカウンセリングは、一般的に支持的精神療法(カウンセリング)です。患者様の背景(発育発達生活歴、家族状況、生活社会活動状況、性格、過去の困難状況、ストレス対処パターン等)を考えながら、傾聴(相手の立場になり聞く)し、常識的な、ストレス困難、苦労、苦痛状況に対してのアドバイスを行うカウンセリングです。
 患者様は「話を親身によく聞いて頂きました」と思って頂ければセッションは終了です。だいたい15分以内が一般的です。
 保険診療によるカウンセリングです。精神障害(精神病)を含め、精神疾全般に行われるカウンセリングです。
 公認心理士(臨床経験が豊かな臨床心理士)が行うカウンセリングでは、認知行動療法(医師も健康保険で行えます)、絵画療法、箱庭療法、精神分析的精神療法等があります。
 個人カウンセリング、集団カウンセリング、夫婦カウンセリング等々での公認心理士が行うカウンセリングでは、自己洞察、内省を求められ、時には不快な感情も出現しますが、本質的本格的なカウンセリングです。
 一回のセッションは1時間以内が多く、残念ながら、認知行動療法以外は、現時点では保険診療にはなりません。ケースによっては、数年の治療期間が必要なカウンセリングでもあります。もちろん医師が行う支持的精神療法も出来ます。統合失調症や双極性障害の重度な精神病の患者様には行わないのが一般的です。発達障害のカウンセリングは、医師や公認心理士が行う、支持的精神療法、認知行動療法が一般的です。

7)  女医さん希望の検索理由ですが、最近では、女性の精神科医は増えてきております。しかし元々より、自傷他害トラブルを起こす過酷な医療現場で、怖さもある医療現場、男性医師が圧倒的に多いのは事実です。
 しかし近年精神科、心療内科診療所の男女の受診割合は、現在ほぼ同数になり、女性のカウンセリングセラピストのブームもあり、また精神障害の病状も軽症化が認められ、女性も活躍出来る場(診療科)になっております。「生きづらさ」を抱えている女性の発達障害の患者様では、同性の医師の方が共感を得られると考えるのは当然で、多い検索数になっているとも思われます。
 不器用な恋愛事情も、精神科の医療現場に上がって来る(受診される)時代ですので。

8)  土曜日の医療。
 元々より精神科の病状では、急患となる病態は少なく、精神的に辛いのも深刻ですが、お腹が痛い、熱がある、痛みが続いている等の身体的な病態との比較では、精神的な病状の我慢度はあります。
 精神という実体のない苦しさと、生物である人間の身体という実体のある辛さの差異でもあります。我慢出来るので、比較的時間が取れる土曜日に受診を希望されるのは、そのためと思われます。

 我慢が出来るのは成熟(世間的には気が強い)、「生きづらさ」を持ちながら社会生活を頑張り、それでも精神科医療を求める発達障害の方の苦しさは、壮絶しがたい苦しさでしょう。

 我々精神科医は少しでも、そのような患者様に少しでも支援が出来ればと日々思い、診療しております。


 
令和3年1月
杉並区医師会精神科医会
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