病気の話

【第27回】
アデノウイルス感染症について

 高熱を生じる病気としてインフルエンザ感染症につづき、アデノウイルス感染症があげられます。 インフルエンザウイルスは呼吸上皮から、アデノウイルスはリンパ組織へ侵入・増殖する疾患で病態が異なります。
 ヒトアデノウイルスはアデノイド(咽頭扁桃)組織から発見されました。 耳鼻咽喉科領域であるにも関わらず耳鼻咽喉科医の関与に乏しく、眼科・小児科が中心になり流行性角結膜炎(はやり目)、 咽頭結膜炎(プール熱)の全国的な発生状況を継続的に調査し、疾病の予防と管理が行われています。
 アデノイド組織は直接見えない上咽頭にあり、その部位はsilent area(沈黙の部位)といわれていましたが、 内視鏡を用いることにより解るようになりました。
 耳鼻咽喉科的観点から乳幼児とくに乳児の不明熱の原因として上咽頭炎があげられます。 上咽頭・アデノイド組織は重要なアデノウイルス感染部位です。そこで耳鼻咽喉科立場からみたアデノウイルス感染症のお話をします。

 アデノウイルスはのどにあるリンパ組織へ感染します。特に乳幼児ではアデノイド組織が標的器官となり、発熱の原因となります。
1歳児:不明熱にて来院、直接眼で診える中咽頭へ特徴的所見はありませんが、内視鏡にて上咽頭のアデノイド表層は 灰白色フィブリン様物質で覆われていました(図1)。経鼻的に上咽頭より採取した検体からアデノウイルス迅速診断陽性を示しました。 アデノウイルスがアデノイド組織で増殖していることが解ります。

2歳児:発熱、耳痛にて来院しました。鼓膜は正常、口蓋扁桃も正常ですが、咽頭側索が灰白色となり、アデノイドの下部も灰白色となっていました。 迅速診断にてアデノウイルス強陽性を示しました(図2)。アデノイド、咽頭側索へ感染しています。

アデノウイルスはワルダオエル咽頭リンパ輪(咽頭扁桃・口蓋扁桃・咽頭側索・リンパ濾胞・頸部リンパ節など)へ侵入・増殖しますので、 頸のリンパ節の腫脹をよく伴います(図3)。
 

・発熱は夜高熱(39℃〜40℃)、朝方は解熱し、このパターン(弛張熱)を4,5日繰り返します。

・多くのアデノウイルスの潜伏期は5〜7日で直接接触、飛沫により感染します。

・アデノウイルスには51種類の型、3つの新型候補があり、咽頭・眼・呼吸器・腸・膀胱などへ感染し多彩な症状を呈します。

・咽頭結膜熱はプール熱として知られ、のどの痛みと目が真っ赤に充血した結膜炎、弛張熱を伴い、感染性が強くタオル、手指、ドアノブなどを介してうつります。学校保健安全法上の学校感染症の一つであり、主要症状がなくなった後、2日間登校禁止とな ります。

・流行性角結膜炎の典型例ではリンパ組織を含む濾胞性結膜炎・角膜の混濁・耳前部リンパ節の腫脹を伴います。

・急性胃腸炎として腸にはアデノイド組織に類似したパイエル板が認められることは興味深いことです。

・呼吸器感染症のうち7型は肺組織に進展、肺炎に至ることがあり、重篤です。

・アデノウイルスの診断法として、迅速診断が有効です。鼻の孔から(経鼻的に)上咽頭:アデノイド組織からフロックドスワグ型の細い綿棒で検体を採取して調べています。特に乳幼児は有用な方法です。

・現在有効な治療法はなく、対症療法です。扁桃炎のタイプでは溶連菌感染症を併合している症例もあり、抗菌剤投与をすることがあります。

・鑑別疾患としてリンパ組織を標的とする伝染性単核症、溶連菌感染症、川崎病があげられます。

 尚、図は山口展正、藤本継人、 岡部信彦:耳鼻咽喉科領域よりアデノウイルスを診る:耳鼻咽喉科感染症の完全マスター 医学書院 耳鼻咽喉科頭頸部外科 83:195-200、2011 より引用しました。


 
平成30年4月 山口内科耳鼻咽喉科
山口展正
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