病気の話

【第76回】
日本精神神経学会学術総会について

 精神科医療は、現代社会では多義に渡り、精神病病体(うつ病、双極性障害、統合失調症、症状器質精神障害(産褥期、甲状腺、ステロイド等による))、神経症疾患(適応障害、摂食障害、不眠症、神経衰弱状態、強迫性障害、全般性不安障害、社会不安障害、パニック障害等)、アルコール依存を含め薬物等の依存症病体、精神障害者自立支援医療、認知症(特に夜間興奮・不穏状態等の問題行動対応)、人格障害対応、発達障害対応、知的障害対応、コロナ禍の精神変調、自殺問題。
 病気疾患でなくとも、5080問題、不登校、閉じこもり、心的外傷後ストレス障害、世代間伝達よりの家族力動トラブル(虐待、アダルトチルドレン)等に対して、本人及び御家族に日常生活上での心理アドバイス、ケア、カウンセリング実施。
 治療での向精神薬投与、認知行動療法及び支持的な精神療法等の心理療法等等。

 上記内容は、皆様は殆ど聞かれた事があるかと思います。日々のニュース等で話題となる事が日常的となっているかと思います。
 それでは、このような多難な精神疾患の時代で、精神科医のスキルアップはどのようにしているかとの疑問を皆様はお持ちになるかと思います。
 そこで、今回この場をお借りして、私達精神科医の勉強の場となる、直近の日本精神神経学会(令和4年6月16日〜18日)のトピックスを要約して御紹介したいと思います。

 今回は、福岡で第118回精神神経学会学術総会は開催されましたが、昨今のコロナ禍のご時世で、学会講演は、ZOOMによるライブ配信もされました。

 学会では(どの科の学会でも)、初日のメイン会場での第一講演演題が一番重要になります。過去には、認知症の原因となるアミロイドβタンパク以外に、タウ蛋白が(タウSpectが開発され)、アミロイドβ以上に認知症に影響しているとの大変にインパクトな講演もありました。

 今年は「精神科領域でのオンライン診療の今後」の表題、コロナ禍で暫定的に厚生省が認可していたオンライン診療(初診から、スマホ等のITツールのみで診療が出来る診療)が、今年の4月より正式に医療保険診療上でスタートになりましたが、精神科だけは除外されました。
 その理由は、元々精神科医が処方する向精神病薬は、処方日数制限や取り扱いが厳しい劇薬指定薬がある事が多い関係によりますが。

 因みに、当日学会内でのアメリカ在住に精神科医の講演(アメリカよりオンライン参加)では、アメリカでは処方の調剤は、数年前から完全IT化され、処方された患者様の調剤薬局名情報、調剤日(受取日)情報等が処方した医師のスマホ等のITツールに全ての電子情報として届き、複数薬局での調剤、回数重複調剤が防げるシステムとなっているとの事で、コロナ流行と同時に直ぐに、全く問題なくオンライン診療が出来、最近では、対面診療が非常に重要である認識されている精神科医療上でも、アメリカのオンライン診療では、その効率性合理性等の良さが認識されているとの事でした。

 その他に印象に残ったメイン会場での講演題目は、「成人期発達障害の薬物療法」「ギャンブル依存症追求33年」「精神医学の到達点と展望」「(新診断基準の)ICD11を適切に使うための知識」「コロナ禍での事象を通して、わが国の母親の立場、女性の立場を考える」「全国の精神保健センターにおける自殺予防対策の取り組み」「コロナ禍の自殺対策を振り返る:アフターコロナを見据えて」「精神科臨床倫理の在り処、治療同意を得られない患者(様)への支援と倫理的課題」。

 また当時進行で行われたサブ会場での、執筆者が印象に残った講演演題では、「精神科で本当に必要な薬は何か?−精神科における合意形成を目指して」「障害を外来で効果的に考える」「精神障害者の-働きたい-を支援するために:一般就労実現に向けた就労支援の新展開」「認知症と他の精神疾患との鑑別診断のポイント」「高齢者の軽微な行動変容をどう捉えるか〜認知症前駆段階の多様性」「治療抵抗性統合失調症の分類と診断」「児童臨床の現場における公認心理師の役割」等です。因みに、上記演題は、今学会全演題数の約220演題からピックアップしたものです。

 タイトルをご覧になり、皆様どのように感じられましたか?
 どうして誰もが思っている精神科の研究はされていないの?

 私も以下の内容を知りたい日々です。
 例えば、
 (精神「私」どこに有るの?脳、内臓(腸内フローラ)、体全体?)
 (精神の遺伝子は有るの?)
 (精神病の本当の病因は?精神病の関係する遺伝子の最先端研究は?)
 (認知症の原因は?新しい認知症の治療薬の日本での開発状況は?)
 (認知症の治療で、ips細胞を使用して中枢神経細胞の再生出来るの?)
 (人工知能は、精神を持てるの?)
 (精神での死とは?)

 残念な事に今年も、私の欲求不満は解消されませんでした。
 精神科医療の本質は、やはりアナログ医療、最先端の医療には御縁がないのでしょうかね。
 精神的に困っている患者様を、毎日コツコツ、幾らかでもお助け(自己回復力アシストと支援アシスト)が出来るように、今後もマンパワーで邁進、猛進して行く所存です。

 今回上記演題を「病気の話」に転載する事については、日本精神神経学会の承認を頂いております。
 因みに日本精神神経学会だけは、患者様も一般学会員になれる唯一の学会です(他の科の学会では医療関係者のみです)。
 御参考までに、患者様も現地の学会には、入会しなくても参加は出来ます。


 
令和4年7月
野崎クリニック(http://www.nozaki-clinic.or.jp/
野崎 純
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