病気の話

【第31回】
大腸がんの予防について

 日本では食生活の欧米化に伴い、大腸がんは肺がんに次いで2番目(男性では3位、女性では1位)に多い死亡原因です。 しかし、早期発見により根治が可能ながんの1つでもあります。 大腸がんによる死亡リスクを低下させるために、現在日本では便潜血検査による大腸がん検診が施行されていますが、 それでも大腸がんによる死亡率が高いのはなぜでしょうか? 杉並区民はもちろん、日本国民の大腸がんによる死亡率を減少させるために、皆様の素朴な疑問にお答えします。 今回は、大腸がんについての疑問を予防医学を重点に質問形式にてご説明させて頂きます。

Q1 大腸がんにならないようにするには、どのような予防があるのでしょうか?

Ans:大腸がんの予防には一次予防、二次予防、三次予防があります。
一次予防:食生活を改善して、大腸がん自体の発生を予防する事です。
大腸がんの危険因子としては、@年齢(50歳以上)、A大腸がんの家族歴、B高カロリー摂取及び肥満(赤身肉・加工肉の摂取)、 C過度のアルコール摂取、D喫煙、などが挙げられます。 抑制因子としては、@野菜・繊維質・果物・牛乳・カルシウムなどの摂取、A適度な運動による減量、 Bアスピリン(解熱鎮痛剤)などが報告されています。

二次予防:早期発見、早期治療により治癒(完全に治療し完治する事)を目指す事です。
それには、積極的な検診による便潜血検査や大腸内視鏡検査を受けることが重要です。 そして、前がん病変である腺腫や鋸歯状ポリープを積極的に切除することが重要です。

三次予防:大腸がんになってしまった方が再び大腸がんにならないよう(異時性再発)予防する事です。 それには生活改善(一次予防)、定期的な検査(二次予防)を行うこと以外にも、 現在は経口薬(鎮痛剤)内服による再発予防の研究が行われています。

Q2 健診や人間ドックで便潜血検査をしているのになぜ大腸がんの死亡率が高いのですか?

Ans:日本では主に便潜血検査が大腸がん検診のスクリーニング法として用いられています。 しかし、この検査でも進行大腸がんの陽性率は60〜75%、早期大腸がんの陽性率は3〜40%にすぎません。 欧米などの研究では大腸内視鏡検査によるがん抑制効果は極めて高い有効性が示されています。 国民全員に必ず一度大腸内視鏡検査をすることを義務化することにより、大腸がんの予防のみならず、 大腸がんの治療による医療費の削減につなげている国もあるのです。 それに比べ、日本は極端に大腸がん検診の受診率が低く、大腸内視鏡を敬遠する傾向にあるのが原因です。 便潜血検査は苦痛を伴わなく簡便な検査ではありますが、先ほどご説明した通り、がんの陽性率は決して高くはありません。 よって、大腸内視鏡検査をもっと積極的に受けていただきたいと思います。

Q3 大腸内視鏡検査は辛くて苦痛を伴うと聞いており、あまりやりたくないのですが・・

Ans:欧米では大腸検査を行う場合、多くは鎮静剤や全身麻酔で行います。 ですから大腸内視鏡検査にそれほどの抵抗がないようです。 現在の日本では全身麻酔で検査を行う施設はありませんが、最近では鎮静剤を使って検査を行う施設が増えてきています。 当然、術者の技量により大きな差はありますが、なるべく疼痛が少ないように工夫がされた内視鏡も年々進歩しています。 また、挿入方法や挿入時に使う空気を吸収の早い二酸化炭素を使用するなどの工夫がされています。 もちろん、全例に二酸化炭素や鎮静剤が使えるわけではありませんので、診察を受けたうえで適切な方法を医師と相談しましょう。

Q4 以前、大腸内視鏡検査をしたが、痛みが強くて奥まで入らなかったのですが・・

Ans:Ans:現在では、痛くて大腸の奥まで入らなかった場合や、お腹の手術による癒着が予想され大腸内視鏡検査が困難な場合は、 大腸カプセル内視鏡が保険適応になっています。 カプセル内視鏡検査は観察のみで同時に治療することはできませんが、痛みを伴うことなく大腸の中を観察することができます。 しかし、大きな病変は発見できますが、小さなポリープや早期がんの発見率は内視鏡検査に比べ劣ってしまいます。

Q5 大腸ポリープは全て切除するべきなのでしょうか?

Ans:全て切除する必要はありません。
大腸ポリープはおおまかに、炎症性ポリープ・過誤腫性ポリープ・過形成性ポリープ・腺腫性ポリープなどに分類されます。 腺腫性ポリープは、大きさに関わらずがん化する事がありますので切除の対象となります。 これらを診断するために、狭帯域光強調(NBI)拡大観察を行います。 NBIとは通常とは異なる波長を使って観察する事です。 この波長の光をあてると、表面から400μm下層の血管を観察することができます。 悪いもの(腫瘍)はこの部分の血管が拡張・蛇行してきます。また病変を80倍の光学ズームで観察することにより、 腫瘍なのか非腫瘍(炎症など)なのか、今後進行してがんになるものなのかをより早い段階で見極めることが可能です。 これにより不必要な組織生検やポリープ切除を回避することが可能です。

Q6 大腸内視鏡検査は定期的に行うべきなのでしょうか?また行うのであればどのくらいの間隔で行うべきでしょうか?

Ans:大腸内視鏡検査をして異常がなかった場合は、年1回の便潜血検査を、 ポリープを切除した場合は、3年以内の大腸内視鏡検査による経過観察が推奨されています。
大腸はヒダが多く曲がりくねっているため、見逃されてしまう小さなポリープやがんが存在すると言われています。 また、日本人は急速に進行する大腸がんの報告もあり、1年前の検査では問題なかったのに、翌年に進行がんで見つかる報告もあります。 よって、現在Japan Polyp Studyという研究が行われており、今後推奨される観察期間が明確に決められ、日本独自のガイドラインが作成される予定です。

今回は、大腸がんの予防から検査について、診療しているとよく質問される患者様の疑問・質問に対してお答えしました。 我々、杉並区医師会会員は区民の皆様の健康を守るのが使命であり、検診業務や検査に尽力を注いでいます。 区民の皆様も、これを機会に是非かかりつけの先生にご相談ください。また、積極的に区民健診・大腸内視鏡検査を受けるよう心がけましょう。


 
平成30年9月
はやま消化器内科クリニック(hayama-cl.com/)
 院長 羽山 弥毅
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