病気の話

【第56回】
乳がんについて:その2(乳がんの治療編)

1.乳がんといわれたら

 病院で検査をして、乳がんと診断を受けました。
 手術は痛いし、怖いし、乳房のかたちも変わるし(下手すると全部無くなっちゃうし)、私は手術はいやだなと思っている方、少なくはないと思います。
 しかし早期の乳がんであれば、(切除して治る見込みのある乳がんであれば)手術療法が第一です。
 間違っても民間療法(怪しい水とか、何とかの粉とか、これを貼ったら治るとか)は勧められてもお断りしましょう。癌がどんどん進行します。

2.遠隔転移の検査

 手術をするにあたっては、必ず他の臓器などに転移がないかどうかをまず検査します。
 乳がんは腋窩(わきの下)のリンパ節、その先の鎖骨下リンパ節、その後遠隔転移といって、肺、骨、肝臓、脳などに転移をすることがあります。
 遠隔転移がないことが手術の第一条件です。遠隔転移は、CT、MRI、PETなどによって診断されます。

3.乳癌の手術

 最近は大きく分けて2つの手術療法があります。
 乳腺を全て摘出する方法(乳房全摘術)と、乳がんを中心とした一定範囲を部分的に切除する方法(乳房温存術)です。
 乳房温存術は広く一般的に行われるようになりました。手術後に残った乳腺に放射線をあてること(術後放射線療法)により、乳房全摘術と術後の生存期間に差がないことが全世界的に証明されているからです。
 また大きな腫瘍であっても手術前に抗がん剤を使用して腫瘍を小さくしてから乳房温存術が可能となることもあります。乳房全摘術後は乳房を再建(つくりなおす)することが現在では可能です。健康保険適応になっている方法もあります。

4.ホルモン療法、分子標的治療薬、抗がん剤

 乳がんは女性ホルモン(エストロゲン)に反応性のあるものが約70%といわれています。
 その場合手術後のホルモン療法として閉経前の方には抗女性ホルモン剤のタモキシフェンという飲み薬と卵巣から出るエストロゲンを抑制する注射が併用されます。
 閉経後の方はアロマターゼ阻害薬という飲み薬にて治療を行います。またHER2蛋白という細胞増殖調節に係っている因子が多く見受けられる乳がんにおいては(約20%)、トラスツズマブという分子標的治療薬が用いられます。
 ホルモン、HER2蛋白、両者陰性の場合、トリプルネガティブといって、現在の医療では再発防止に対しての治療が抗がん剤しかないタイプのグループもあります。
 それぞれの乳がんのタイプあるいは進行具合によって再発予防のお薬は変化します。抗がん剤は吐き気や髪の毛が抜けるなど、つらいことも多いですが、日本の統計によると標準的な抗がん剤治療を行うことにより、1000人が再発すると予想した場合、実に440人もの人が再発を免れるというデータもでています。

5.放射線療法

 あとは放射線療法です。
 乳房温存術後にはかならず術後放射線をあてることになっています。またかなり進行したがんの場合には乳房全摘出後でも、ある特定の部位に放射線療法を行うことがあります。
 再発予防以外では、リンパ節再発や骨転移の場合など、部分的に放射線を照射したり、脳に転移した場合などガンマナイフという放射線治療もあります。

6.検診の重要性

 以上、乳癌に対しての治療につき、簡単ではありますが解説させていただきました。
 とにかく乳癌に限らずがんの治療は早く見つけて早く治す、すなわち早期発見早期治療につきます。早い段階で見つかれば、命を脅かされることもなく完治に至ることも多いです。
 そのためには定期検診を受けること、そして自分で気づいたら怖がらずにすぐに医療機関を受診することが大切です。


 
令和2年10月
久我山クリニック(http://www.www.kugayama-cl.com/
八木美徳
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