病気の話

【第61回】
〜アレルギー性鼻炎(スギ花粉/ダニ)の舌下免疫療法(アレルゲン免疫療法)〜

はじめに

 アレルギー性鼻炎(スギ花粉/ダニ)の治療法のひとつに、アレルゲン免疫療法があるのをご存知でしょうか?
 アレルゲン免疫療法は、アレルギーの原因となっているアレルゲンを少量から投与することで、体をアレルゲンに慣らし、アレルギー症状を和らげることができ、日常生活に与える影響を少なくする効果が期待できます。
 現在では、舌の下に治療薬をおいて1分間そのままにした後に、溶けた治療薬を飲みこむ「舌下免疫療法」が主流となり、自宅で気軽に服用できるようになりました。副作用も以前の下免疫療法(皮下注射)に比べて少ないのが特徴です。
 アレルギー性鼻炎(スギ花粉/ダニ)を根治的に治療できる可能性があり、特にスギ花粉症や、ダニによる鼻炎/くしゃみ/目のかゆみ等で、日常生活に支障があると感じている大人の方はもちろん、お子さまにも是非お勧めしたい治療法です。

治療対象

 小児〜成人、スギ花粉またはダニアレルギーによるアレルギー性鼻炎の患者さまで、一般的な治療で充分な効果が得られない全ての患者さまが対象となります。
 治療を開始するには、事前に採血をして、スギまたはダニのアレルギー反応があることを確認する必要があります。また、小児において年齢制限はありませんが、舌の下に治療薬を置く、「舌下治療」がきちんとできるお子さまに限るので、5歳以上が望ましいとされています。
 下記に当てはまるかたは、是非一度ご検討頂きたいと思います。
  ◎将来的にアレルギー性鼻炎の薬を減らしたい。
  ◎アレルギー性鼻炎により日常生活が制限されていると感じている。
  ◎将来的に妊娠を希望している(妊娠中の治療開始は出来ません)。
  ◎抗アレルギー剤の副作用による眠気で困っている。
  ◎将来受験を控えている学生さんなど。

 お子さまを含め、ご家族でアレルギー性鼻炎に悩まれているかたは、ご家族で一緒に治療を開始することで、治療継続のモチベーションの向上にも繋がると考えています。

治療効果

 舌下免疫療法は、アレルギーの原因物質に対する免疫反応そのものを改善するので、アレルギー性鼻炎の根治的治療となる可能性がある唯一の治療法です。鼻炎症状だけでなく、眼の症状や、皮膚のかゆみにも効果があります。3年〜5年治療を継続できれば、根治にまで至るかた含め、治療中止後もある一定期間治療効果が継続します。また症状が再発した時は、治療再開によりまた効果が発現することが知られています。
 特にダニによるアレルギー性鼻炎をお持ちのお子さまに関しては、今後将来的に起こりうる、「気管支喘息」の発症を予防する効果があるとされています。既に気管支喘息を合併している、ダニによるアレルギー性鼻炎のかたでも、舌下免疫療法を行うことにより、気管支喘息の症状も軽減することが十分に期待できます。
 治療期間は3年〜5年と長期になりますが、スギ花粉によるアレルギー性鼻炎では、治療開始後初めてのスギ花粉飛散シーズンから(つまり開始翌年の春から)治療効果が期待できます。またダニによるアレルギー性鼻炎でも、治療開始数か月後から症状を和らげることが期待できます。いずれも年単位で治療を継続することにより、根本的なアレルギー体質の改善が期待できます。

副作用

 スギ花粉や、ダニにアレルギーをお持ちの患者さまに、そのアレルゲンを投与する、という治療法ですので、当然のことながらアレルギー反応が起こる可能性があります。
 特に重篤な場合では、アナフィラキシーショックと呼ばれる救急搬送されるような強いアレルギー反応を生じる可能性がありますが、その発現頻度は非常に低く、舌下免疫療法によるアナフィラキシーショックは投与1億回に1回、副作用4000例のうち1例程度との報告があります。また、ショックに至るような事例は通常の服用例ではなく、過量服用や体調が悪い時が多いと言われています。以上のことから、アナフィラキシーショックを心配して舌下免疫療法をやらない、という選択肢は基本的にないと考えて頂いてよいです。
 実際には、下記の軽度な副作用が多いとされていますが、@のような局所の副作用がほとんどです。
 @口腔内、口唇、喉のかゆみ、違和感、腫れる感じ、舌のピリピリ感など
 A嘔吐や腹痛、下痢など
 B蕁麻疹
 C咳/喘息発作

 上記副作用の多くが自己管理可能で、治療を必要としないものが多いです。
 一般的には、ダニアレルギーによるアレルギー性鼻炎治療薬のほうが副作用の程度が強い傾向にあります(薬に含まれる抗原量の違いによるものです)。

投与方法の実際

 スギ花粉/ダニアレルギーによるいずれのアレルギー性鼻炎においても、舌の下に免疫治療薬の舌下錠を置きます。薬は速やかに溶けますが、すぐ飲みこまないで、舌の下に1分間含んでおき、その後に飲みこみます。この行為が正しく出来るかどうかがポイントですので、小児においては、5歳以上が望ましいとされています。個人的には少し余裕をもって、小学生以上のお子さまが適切と考えています。初回投与は必ず医院内で行い、副作用を観察するため、投与後約30分は医院内で経過観察をします。2回目以降の服用は自宅で行います。薬剤そのものは無味無臭です。服用後5分間はうがい、飲食は避け、服用後2時間程度は激しい運動やアルコール摂取、入浴は避ける必要があります。特にお子さまでは、服用後の状態がきちんと観察できるように、連日朝の服用をお勧めします。
 ただし、次のようなかたは舌下免疫療法を受けられませんので御注意下さい。
 @採血でスギ/ダニに対する抗体を証明できない。
 A採血でスギ/ダニだけでなく、その他の多種のアレルゲンにも高い反応を示している。
 B気管支喘息のコントロールが不良である。
 C重症アトピー性皮膚炎、重症食物アレルギーがある。
 D自己免疫性疾患、免疫不全症がある。
 E妊婦、授乳中である。
 Fステロイド、免疫抑制剤投与中である。
 Gβブロッカー、三環系抗うつ薬、MAO阻害薬を服用中である。

治療開始時期

 スギ花粉症によるアレルギー性鼻炎では、スギ花粉飛散のない、6月から11月末までに治療を開始します。
 ダニアレルギーによるアレルギー性鼻炎では、体調不良時でなければいつでも治療開始出来ますが、ほとんどのダニアレルギーのかたは梅雨時や秋口に症状が悪化することが多いので、開始時期は個人個人で検討する必要があります。
 スギ花粉症とダニアレルギーを両方お持ちの方では、併用療法も可能です。一般的にはまず片方から開始し、単剤での副作用の発現を確認してから、他方の併用を開始します。最低1〜2ヵ月は単剤での使用が良いとされています。併用療法により副作用が増えることはないとされています。
 初回治療開始日から約2週間後に来院して頂き、決められた通りに服薬できたか、副作用の有無、体調や口腔内の状態を確認し、治療継続可能かどうか判断します。治療維持期になると、基本的には月1回の受診が必要となります。

最後に

 アレルギー性鼻炎(スギ花粉/ダニ)の舌下免疫療法(アレルゲン免疫療法)は、まさに「継続は力なり」の治療方法で、根治を目指せる唯一の治療法です。即効性を求めているのではなく、体質改善が目的ですので、長期に治療持続できれば、軽度な花粉やダニによる刺激に対して身体が反応しにくくなります。特にダニアレルギーをお持ちのお子さまは、将来的に「気管支喘息」を発症する可能性が高いですので、舌下免疫療法は、その発症を予防する効果もあります。実際にダニアレルギーのアレルゲン免疫療法は、経口薬は以前から気管支喘息の適応があり、今後舌下投与薬も気管支喘息の保険適応になると言われています。
 アレルギー性鼻炎(スギ花粉/ダニ)の全てのかたが対象であり、症状でお悩みのかたは是非一度、ご検討頂く価値がある治療法だと考えます、どうぞいつでもご相談下さい。


 
令和3年3月
医療法人社団 こじま内科(https://kojima-naika.info/
小島 淳
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