病気の話

【第35回】
安静は麻薬である

 健康寿命と平均寿命という言葉をご存知ですか? 平均寿命とは0歳児における平均余命で、日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳です(2016)。 健康寿命とは健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間のことで、平均寿命と健康寿命の間には女性で13年、 男性で9年もの差があります。 この数年間は介護が必要になるということです。最期まで元気に自立して楽しく過ごしたい!これは皆の願いではないでしょうか?

 健康寿命を短くしている一つの要因に運動器の怪我があります。 転倒して骨折したために寝たきりになる、あるいは関節の痛みからADL(日常生活動作)が低下してしまう、などです。 これらの予防のために
1 転ばない体を作る
2 転んでも折れない骨を作る
ということが大切になってきます。これらの取り組みは実は歳を40歳を過ぎたら始めないといけないのです!

 実は40歳を過ぎると、普通に生活しているだけでは衰えていく筋肉があります。 そしてそれらの筋肉は、転倒予防のためにとても重要な筋肉なのです! つまり、40歳を過ぎたら、筋肉が衰えないように何らかの努力が必要である、という事です! これらを鍛える簡単な手法として、日本整形外科学会が提唱している取り組みの一つに『ロコトレ』があります。 https://locomo-joa.jp/check/locotre/

 これは下肢の筋力とバランス機能も鍛えていく、簡単なトレーニングになっています。とりあえず始めるにはとても簡便で有用です。 ただ、筋力をアップするためにはある程度きついな〜と思うくらいのトレーニングをしていただくことが重要ですので、 ロコトレができたら、さらに上を目指してトレーニングしていく事も大切です。 ただ、骨粗鬆症などの疾患がある方は、そのやり方を気を付けないと怪我につながってしまうこともあるので、自分の身体を知ってお くことも重要になってきます。
 さらに、筋力アップと同時に、有酸素運動も取り入れることが大切です。例えば、有酸素運動の代表であるウォーキングは体力維持には1日6000歩、 体力向上には8000歩以上が必要とされています。 できれば大股・早歩きをしていただくことが転倒予防にも有効です。どうしても今日はやる気が起きない! そんなときは踏み台昇降でもよいし、腹式呼吸の練習をするだけでも、大丈夫です。
 心地よい運動は万能薬なのです。

 昨年、杉並区整形外科医会は、『転倒予防フォーラム』という区民向け講座を立ち上げました。 いかに体を鍛えていくべきか、そして運動器だけでなく、認知機能・栄養・循環・福祉と転倒の関係について、 地域で活躍している専門の先生方のお話しを身近で聞いて、転倒予防について考えていこう、という会です。 どなたでも参加できますので、介護に携わるすべての方々の交流の場にな ると良いと考えています。

 安静は麻薬です・・・。ごろごろしていると楽だけど、気が付かないうちに筋力は落ちて、代謝も落ちて、確実に体がむしばまれていくのです。 膝が痛くなり、腰が痛くなるのです。そこから回復するには、それなりの頑張りが必要になるのです。そろそろ運動したくなりましたか?


 
平成31年1月
松浦整形外科内科 (http://www.matsuura-ort.com/index.php
 院長 井上留美子
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