病気の話

【第42回】
アトピー性皮膚炎とは

はじめに

 アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら慢性的に続く皮膚の病気です。一般的に乳児では2カ月以上、幼児期以降では6カ月以上続くことを慢性といっています。アトピー性皮膚炎の症状は、もともと刺激や細菌などの侵入から体を守る皮膚のバリア機能の低下や水分保持機能の低下があり、そこにストレスや気候、食事、ダニ、ホコリ、細菌、カビ、汗、汚れなどの様々な影響を受けることによって起こります。

治療

 治療は『薬物療法』、『スキンケア』、『悪化因子への対策』の3本柱で成り立っています。

<薬物療法>
 外用療法が治療の基本です。保湿剤やステロイド、タクロリムス外用薬といった抗炎症薬を中心に、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などを補助的に使います。特に重症な場合に限りステロイドの内服や免疫抑制剤を使うとこもあります。適切な治療を行うと、1週間くらいでお肌の状態はかなり改善しますが、そこでやめてしまうとぶり返してしまうため、よくなった後はステロイドを減量していき、お肌をきれいに保つようにしていきます。
アトピー性皮膚炎の病態を『堤防=皮膚のバリア』に置き換えて説明することがあります。悪化因子の積み重ねにより堤防が決壊すると、症状が出現します。薬物療法は土嚢のようなもので、決壊した堤防を修復しますが、臨時措置なため治療を中断してしまうと、また決壊してしまうばかりか、さらに悪化してしまう場合もあります。中途半端な治療はかえってアトピー性皮膚炎が悪化してしまうので、外用療法を中心にしっかり管理をしていくことがとても大切です。

<スキンケア>
 皮膚の刺激となる汚れやブドウ球菌はアトピー性皮膚炎を悪化させるため、石鹸を使ってよく落としてあげることが大事です。タオルなどでゴシゴシ洗うと皮膚が傷つくので、よく泡立った石鹸を使い、指の腹で優しく洗うようにします。入浴後は皮脂が取れ乾燥しやすくなっているため、できるだけ早いうちに保湿剤を塗るとよいです。

<悪化因子への対策>
 ストレスや気候、食事、ダニ、ホコリ、細菌、カビ、汗、汚れなどが悪化因子となります。生活習慣の改善、環境対策、食事の偏りをなくしバランスの良い食習慣を心がけるなど、各々に対し対策することも大事です。

Q:食物アレルギーとの関連は?

A:以前はアトピー性皮膚炎と食物アレルギーを混同して考え、アトピー性皮膚炎があると食事制限を指導をすることもありました。最近ではアトピー性皮膚炎と食物アレルギーといった別の病気が合併していると考えられるようになり、それぞれに対しアプローチをしていくようになりました。しかしながら、湿疹のあるところに食べ物がつくことによって食物アレルギー(経皮感作)を引き起こしたり、食物アレルギーの症状としてアトピー性皮膚炎があったりと完全に切り離して考えることはできないため、主治医の先生とよく相談していくことが大切です。

Q:ステロイドを塗っても大丈夫ですか?

A:『ステロイドは副作用が強い薬だから塗らない方が良い。』、『ステロイドを使っていたら逆に悪くなってしまった。』などという話を聞いたことがあるかもしれません。なかには『ステロイドを塗ってもよくならない。』といったお話を聞いたこともありますが、本当のところはどうなのでしょうか?

 副作用は確かに心配ですが、特に心配しなければならないのは飲み薬の場合です。ステロイド(=副腎皮質ホルモン)は本来体内で作られ、身体のバランスを維持する働きをしているとても大切な物質です。長期に飲み続けると過量となり身長が伸びない、感染に弱くなる、顔が丸くなる、白内障になる、骨が弱くなるなどの多くの副作用が出てきます。また、体内での分泌が抑制されてしまうため、急に内服をやめてしまうとバランスを維持できなくなり急激に具合が悪くなったりもします。ただし長期的にステロイド内服が必要なのは、最重症のアトピー性皮膚炎や膠原病などの免疫抑制剤が必要な病気など限られており、通常のアトピー性皮膚炎で使用されることはまずありません。外用剤は体内のホルモンバランスに影響を与えるほど吸収されませんが、皮膚線条、酒さ様皮膚炎(長期使用による毛細血管拡張で顔が赤くなる)や伝染性膿痂疹(とびひ)などの副作用が見られることがあります。
『ステロイドを使っていたら逆に悪くなってしまった。』や『ステロイドを塗ってもよくならない。』などについては、用量、用法を正しく指導されていない場合があります。治療の基本はFTU(フィンガーチップユニット)で決められた量を正しい期間で塗ることが大切です。途中でやめてしまったり、十分な量を塗られていなかったりすると、かえって悪化してしまいます。そういったことが上記の訴えにつながっていくので、用量・用法をきちんと守ることがとても大切です。


 
令和元年8月
つばきこどもクリニック (http://tsubaki-kids.com/
 椿 英晴
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