病気の話

【第23回】
最近の話題のHBOC 〜卵巣がんを中心に〜

 近年メディアで大きく取り上げられている遺伝性乳がん卵巣がん(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:HBOC)。 その原因遺伝子は主にBRCA1, BRCA2とされており、それらの遺伝子に変異があると、 70歳までにそれぞれ約40%, 10〜20%が卵巣がんになるといわれています。 孤発性(遺伝性ではない)卵巣がんに比較して若年で発症することも有名であり、早期発見や予防がとても重要と考えられます。
 米国婦人科腫瘍学会が2014年に提示したガイドラインには「卵巣がん・卵管がん・腹膜がんの患者は明らかな家族歴がなくても 遺伝カウンセリングを受け、BRCA検査を受けるべきである」と記されています。 しかし、血液による遺伝検査費用が高額であることや、遺伝カウンセリングの体制が日本では整っていないことなど、 問題も多く存在するのが現状です。どのような治療法・予防法が存在するのか、どのような問題があるのかについて紹介していきましょう。

BRCA変異のある卵巣がんの特徴

 BRCA変異を持つ卵巣がんは化学療法が効きやすいことが知られています。 更に、BRCA変異を持つがん細胞に対して効果を発揮する薬剤としてPARP(poly ADP ribose polymerase)阻害剤の開発が進められ、 2014年12月にはBRCA変異を持つ進行性卵巣がんに対する治療薬として、オラパリブがFDAに認可されました。 わが国では臨床試験が行われており、保険収載が望まれます。 よって、卵巣がんを発症した場合、自身がBRCA変異を持っているのかどうかを調べる意義があるのです。

遺伝検査

 卵巣がんを発症した方の他にも、以下のような方はHBOCである可能性が一般より高いと言われています。


日本HBOCコンソーシアムHP『遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)をご理解いただくために(Ver.3)』より引用


 生殖細胞系列におけるBRCA1/2遺伝子の変異は、親から子へ、性別に関係なく50%の確率で受け継がれます。 BRCA1/2遺伝子の変異を持つ家系で、乳がん・卵巣がんをまだ発症していない家族に遺伝検査をすることで、効果的な対策が可能となります。 また、検診の頻度を高めることでの早期発見・早期治療に加え、予防策もあります。

予防的手術

 BRCA関連の乳がん予防には予防的乳房切除術があり、乳がんの相対リスクは約50%軽減されるとの報告があります。 卵巣がん予防にはリスク低減卵管卵巣摘出術が効果的で、卵巣がんの相対リスクは約80%軽減されます。 保険収載は達成されておらず自費での手術となるのに加え、実施施設が限られていることが難点といえるでしょう。 また、妊孕性の問題もあります。 一般的にこれらの手術は35-40歳(BRCA1変異保有者の場合)もしくは挙児希望終了時が望ましいとされていますが、 BRCA関連の乳がん・卵巣がんは疫学的に若年発症であり、これから妊娠を考慮する生殖年齢である可能性が十分にあります。

遺伝カウンセリングの問題

 上記のように、今後BRCA検査が日常生活に大きく関わってくる可能性があります。 しかし、すべての方に遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医が説明を行うことは難しく、体制が整っていないのが現状です。
 遺伝検査を受けるかどうか、遺伝検査の結果の解釈はどのようにすればよいのか、予防的手術を受けるかどうか、我が子に伝えるのか伝えないのか・伝えるタイミングをどうするかなど、迷うこともあるでしょう。一人一人に合った選択肢を提示し支援できるような医療体制を整えると同時に、ぜひ多くの方にHBOCについて知っていただき、ご理解いただけることが重要と考えます。


 
平成29年5月 河北総合病院 産婦人科 浅田佳代、五味淵秀人
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