杉並区医師会は区民の皆様の健康の保持・向上を目的に、各種健診・休日診療・予防接種・講演会・児童生徒の健康管理・救急及び災害時医療・介護認定審査等の事業を行政(杉並区)とまさに車の両輪の関係で実施しています。
このコーナーでは、杉並区医師会が医療現場から得られた情報を基に医療の専門家としての対策を考え、その具現化した内容を医療情報として皆様に発信することを目的としています。
【第10回】杉並区がん検診について(1)[2020.03.11掲載]
この記事は、2011.09.02掲載の「【第5回】杉並区がん検診について(1)」 の内容を更新したものです。
各がん検診の説明前に区民の皆様にがん検診とはどういうものかを述べさせていただきます。
まず対策型検診(住民検診型)とは「住民全体の死亡率を下げることを目的とし、死亡率減少効果が証明されている方法で、限られた資源のなかで、利益と不利益のバランスを考慮し、住民にとっての利益を最大化する。」と規定されています。
つまり安価な検査で、しかも死亡率が下がることが証明されている検査で、早期発見により、がんによる死亡を減らすことです。
検診の利益とは死亡率の減少、早期発見により治療が容易になる、異常なしといわれての安心感などがあります。
不利益としては偽陽性(がんでは無いのに、がんと診断される)、偽陰性(がんがあるのに、異常なしと診断される)、過剰診断(放置したとしても症状が発現しない、死につながらないがんに対しての診断と治療)、精密検査の偶発症(合併症)などがあります。
またがん検診は検査をすれば、必ずがんが見つかるわけではないことをお解りいただきたいのです。万能で絶対の検診はありえません。
進行速度の遅いがんほど発見されやすく、進行速度の速いがんは早期で発見されにくい、がんの種類によっては、検診は役に立たない場合もあります。
特に肺がん検診ではがんが実際にあってもレントゲンで診断できるのは50%といわれています。そのうち早い時期の手術可能な肺がんは30%といわれています。
それでは受ける必要がないと思われるかもしれませんが、実施されているがん検診はすべて、死亡率減少効果が証明されているものだけなのです。多くの区民の皆様ががん検診を受診されるよう望みます。
Q1.
胃癌検診ではどんな検査をするのですか?
現在杉並区での胃癌検診は、バリウムと胃を膨らませる発泡剤を飲みエックス線を使って胃を観察する胃部エックス線検査及び、内視鏡(胃カメラ)により胃内を観察する胃内視鏡検査があります。胃内視鏡は鼻からと口から挿入する方法があります。
以前は胃癌が悪性腫瘍の死亡率1位であり、ここ数年で徐々に減少傾向を認めておりますが、それでも現在まだ3位に位置しています。検診で発見される胃癌の約70%は早期胃癌であり、早期であれば5年生存率(治療後5年後まで生存している割合)は90%以上となっています。
最近では早期がんで発見された場合にはお腹を切らなくても治療可能な、内視鏡治療も割合が高くなってきています。
40歳以上の方は男女限らず、年に1回の検診をされることが望ましいとされています。胃内視鏡による検診は50歳以上の2年に一回の検査となります。(平成29年度 受診率13.0%)
Q2.
肺がん検診ではどんな検査をするのですか?
現在癌の死亡率第1位は肺がんです。肺がんは進行した状態で発見されることが多く、また他の臓器に転移しやすいなどの理由により治療成績が上がらないために死亡数が多いとされています。
肺がんの原因として喫煙が第一に挙げられます。
肺がん検診は胸部レントゲン撮影と医師が必要と判断された方には、喀痰の細胞検査を追加します。一般のドックや会社の検診ではCTによる肺がん検診も導入されていますが、国が認める対策型検診として区市町村が行うのは「対象とする集団の肺がんによる死亡率を減少させる」胸部レントゲン撮影による検診です。平成30年度に残念ながらある施設において杉並区肺がん検診で癌の見落としがあり、検診者が無くなられる事例がありました。
しかし規則に則ったしっかりした検診を実施してきた杉並区医師会の肺がん検診では、東京都、日本全国をみても、トップクラスの実績を上げています。40歳以上になったら男女問わず年に1回の検査が望ましいとされています。(平成29年度 受診率12.5%)
Q3.
大腸癌検診ではどんな検査をするのですか?
大腸癌は現在増加傾向にある癌のひとつで、癌の死亡率の中でも第2位に位置しています。
大腸癌検診は無症状の段階で、癌やポリープを見つけだすことが目的となっています。便潜血検査は、便が癌やポリープと接触することでおきる見えない出血を調べる検査です。
大腸癌は早期がんで治療を行えば5年生存率(治療後5年後まで生存している割合)は90%以上となっています。
また早期がんのなかの粘膜内癌(癌が粘膜内に留まっているもの)であれば、内視鏡での治療がほぼ可能で、5年生存率も100%となっています。毎年の受診が望まれます。便潜血検査が陽性になった場合は、必ず精密検査を受診しましょう。
痔からの出血だからと放置される方もいらっしゃいますが、大腸癌がある場合もあり、あとで大変なことになるかもしれません。
便潜血反応が陽性と出た方が、再度便潜血反応を施行することはまったく意味がありません。(平成29年度 受診率28.9%)
Q4.
子宮がん検診ではどんな検査をするのですか?
子宮の入り口から下1/3あたりまでを子宮頸部といい、子宮頸がんはこの部分に出来る癌です。
子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が、原因となることがわかっています。予防策としてHPVに対するワクチン(代表的な型のもの)を中高校生に予防接種を行っております(現在積極的推奨をしておりませんが、現在も実施可能な予防接種です)。
ただしこれですべての子宮頸がんを予防できるものではありませんので、定期的な検診が必要となります。
子宮頸がん検診は問診、視診、子宮の細胞診と内診を行います。細胞診検査は子宮頸部から専用のブラシや綿棒などで細胞をこすりとって、顕微鏡で調べる検査です。早期がんであれば早期治療を行うことによりほぼ100%子宮を残すこともできます。
最近は20歳代の子宮頸がんが増えていますので、検診は20歳から2年に1回で受診するようにしましょう。(平成29年度 受診率18.3%)
Q5.
乳がん検診ではどんな検査をするのですか?
乳がんは他の癌と違い高齢になるほど多くなることはなく、40−50歳台に多い癌で、近年増加傾向にあります。
癌が乳管(母乳の通り道)や小葉(母乳を作る場所)の中に留まっている状態を「非浸潤癌」とよび、この段階で治療を行えば、転移、再発する確立はほぼなく10年生存率(治療後10年まで生存している割合)はほぼ100%となっています。非浸潤癌は手で触れることは難しいため、「マンモグラフィー」による検診が重要となります。
一方、がん細胞が乳管や小葉を超えて周りの組織に拡がったものを「浸潤癌」とよび、転移や再発の危険性を伴います。乳がん検診はマンモグラフィー(乳房エックス線検査)にて行います。
マンモグラフィーによる検診は乳房が張っているときには痛みを感じやすいので、月経終了後の比較的張りの少ない時期に受けましょう。乳がんが多くなる40歳からは2年に1度の検診が重要です。(平成29年度 受診率25.4%)
Q6.
前立腺がん検査ではどんな検査をするのですか?
現在前立腺がんも増加傾向にあります。20年前に比べ死亡率は約4倍となっています。
前立腺がん検査は血液中のPSA(前立腺特異抗原)という物質を測ることにより行います。PSAは前立腺肥大でも上昇することがありますが、PSA値が基準値を超えた場合には泌尿器科医師による精密検査が必要となります。
杉並区では50,55,60,65,70歳の方の検査をおこなっています。
受診率の参照
東京都福祉保健局 がん検診統計データより